2008年度 公開講演会 発表報告
開催日:2009年1月14日 場所:東洋大学白山キャンパス6302教室
2008年度 公開講演会 発表報告
開催日:2009年1月14日 場所:東洋大学白山キャンパス6302教室
ライデン大学における東洋学
講演者:ジョナサン・シルク(Jonathan Alan SILK)教授 (オランダ・ライデン大学)
〔講演要旨〕
ライデン大学は1575年にオレンジ公ウィリアムによって創立され、″Praesidium Libertatis"「自由の要塞」をモットーとしている。かつてはアインシュタインが教授で、レンブラントが学生であった大学でもある。現在大学は考古学、人文学、法学、医学、科学、社会学・行動科学の6学部からなり、東洋学(Asian Studies)の研究者は人文学に属している。大学のスタッフは3、200人、学生数は18,000人ほど。大学と協力関係にある博物館・美術館として、オランダと日本との深い歴史の先駆者であったシーボルトに因んだシーボルト・ハウスなどがある。
ライデン大学での東洋学については、人文学部(Faculty of Human-itiees)の中に東洋学のインスティテュート(Institute of Asian Studies)があり、その中に6つの科として、日本、中国、朝鮮、インド・チベット、東南アジア(主としてインドネシア)、比較東洋学(Comparative Asian Studies)がある。
インド・チベット学科について見てみると、インド・チベット学には3つの教授の職位があり、その中にサンスクリット学、仏教学、現代インド学があり、それにヒンディー語教育、美術史、チベット語・チベット文化、インド史(歴史学に属する)が加えられている。特にサンスクリットには長い歴史があり、1865年に創設され、ケルン(J.H.Kern)が最初の教授であった。フォーヘル(J.Ph.Vogel)やヴィッツェル(M.Witzel)など著名な研究者が名を連ねる。
また、研究や教育においては、当該の学科だけではなく、他学科の協力も受けている。ライデン大学は言語学の研究が盛んであるが、インド・ヨーロッパ語の研究とインド・チベット学の研究がタイアップしている。インド・ヨーロッパ語の著名な研究者に、アタルヴァヴェーダやリグヴェーダを研究しているルボッキー(Sasha Lubotsky)教授がいる。
仏教学については、1950年代にサンスクリットとは別に仏教学の職位もできて、最初にドゥ・ヨング(J.W.de Jong)が教授を務め、ルエッグ(D.S.Ruegg)、フェッター(Tilmann Vetter)と続き、4番目がこのジョナサン・シルクとなっている。この仏教学では、シルクがインド仏教、大乗仏教を担当しているほか、他の学科からの協力を受けて、中国仏教、日本仏教、チベット仏教をカバーしている。 このインド・チベット学において、ケルン研究所(Kern Institute)が1924年に創設され、上述のケルンの名誉を受けてその名を冠している。元々は大学とは別の研究施設であり、20年間独立していたが、最終的には大学の1部となった。この研究所には図書館があり、サンスクリット写本やチベット写本、レプチャ写本の貴重なコレクションがある。
東南アジアの分野では、インドネシアoジャヮの文学、近代東南アジアの2名の教授の籍があり、これから現代東洋学(Modern Asian Studies)を強力に押し進めようとしている。ただし、ライデン大学に限ったことではないが、昔は古典などは非常に良く研究されたものの、今の若者には関心がなくなってきたようだ。インドネシア語とジャワ語の責任者はアルプス(Ben Arps)教授で、伝統文化と現代の技術について研究し、古代と現代をカバーしている。また、インドネシア学については、オランダ領東インド(Nether-lands East Indies)の時代に行われていた考古学や古代史の研究分野があり、1919年に設置され、ドゥ・カスパリス(J.G.de Casparies)という、著名な研究者がいた。
東アジアの分野では、歴史のある建物の中で、日本学・中国学・韓国学の研究がなされている。図書館も中国学系の図書館が貴重な資料を収蔵している。中国学の人気は高く、それは漢文の読解よりもビジネスヘの展開が動機となっているのだが、学生が多いため教授陣も豊富で、4つの教授職があり、言語教育に非常に力を入れている。
中国研究に関する歴史は長く、1846年にフォン・シーボルトに師事したホフマン(J.J Hoffmann)が日本語と中国語を教え、ホフマンの弟子がシュレーゲル(Gustaaf Schlegel)、その後、中国の宗教・仏教のみならず梵網経の研究で有名なドゥ・フロート(J.J.M.de Groot)、道徳経の研究で知られているドイフェンダク(J.J.L.Duyvendak)、漢代の歴史の大家であるフルセウェ(A.F.P.Hulsewe)、著書 The Buddhist conquest of Chinaの日本語訳が『仏教の中国伝来』(せりか書房)として知られているチュルヒャー(Erik Zürcher)が続いている。
現在中国学は、中国史担当のテル・ハール(Barend ter Haar)がチュルヒャーから教えを受けており、中国の歴史だけでなく白蓮教など宗教の研究を行い、幅広い分野で活躍している。ファン・クレーフェル(Maghiel van Crevel)は中国現代詩を専門とし、シュナイダー(Axel Schneider)は現代中国の政治社会の他、現代の唯識を研究しているという。
日本学では4つの教授のポストがあり、社会学や歴史等日本のいろいろな分野で様々な研究がなされ、また言語にも力を入れている。現在のスタッフを紹介すると、ドゥ・フィッセル(Marinus Willem de Visser)は奈良・平安時代の仏教、主任であるスミッツ(Ivo Smits)は和歌や現代日本映画を研究している。ゴートゥー・ジョーンズ(Chris Goto-Jones)は日本思想を研究し、先に紹介したシュナイダーとともに、中国・日本と協力して、現代東アジア研究センター(Modern East Research Center)において、客員教授招聘や講義を行っている。ファン・フーリック(Willem R. van Gulik)は浮世絵等の日本文化史、ファン・デル・フェーレ(Henny van der Veere)は覚鑁や遍路などを研究している。また、チフィエルトカ(K.J.Cwiertka)は日本の食文化の研究で有名である。
韓国の分野は1つの教授職で、歴史や言語の教育がなされている。ワルラーフェン(Boudewijn Walraven)はシャーマニズムを研究し、以上の諸分野を合わせると、東アジアの宗教を様々な角度から研究していることになる。
研究雑誌については、ライデン大学を中心にいろいろなジャーナルが編集・編纂されているが、有名なのは『通報』T’oung Pao という、昔からある、主に中国・日本をテーマとするジャーナルがあり、また、Indo-Iranian Journal 文字通りインドとイランに関するジャーナル、 Journal of the Economic and Social History of the Orient経済社会史のジャーナル、そしてAnnual Bibliography of Indian Archaeologyはインドの考古学の非常に細かいビブリオグラフィで、重要な資料の1つである。
最後に、大学と協力関係にある研究機関を紹介しておこう。国際東洋学研究所(Intenational Institute for Asian Studies)はニューズレターを発行して重要な情報を発信し、国際的な東洋学の学会を開催し、世界各地から研究者を客員として招き、講義や様々な研究プログラムを展開している。国際的に非常に影響力のある研究機関といえよう。
今回、ライデン大学における東洋学研究の一端を紹介した。教育研究スタッフなど紹介できなかったところもあったが、関心を示していただければ幸いである。