2022年度 公開講演会 発表報告
開催日:2022年12月17日 場所:オンライン
2022年度 公開講演会 発表報告
開催日:2022年12月17日 場所:オンライン
『片山九郎右衛門師の挑戦-新作能『媽祖』とその後』
講演者:片山九郎右衛門 氏(観世流シテ方 重要無形文化財総合指定保持者)
本年度の研究所主催の公開講演会は、原田香織研究所長が開会の挨拶、片山九郎右衛門氏の紹介および講演の進行を務めた。
講演後の質疑応答で、話題性に富む講演の内容に数々の質問が寄せられた。
〔講演要旨〕
2022年4月2日に新作能『媽祖』は観世流シテ方能楽師片山九郎右衛門の作として、京都観世会館において上演された。クラウドファンディングによる市民応援型の公演で、多くの支援者の期待にこたえて大成功をおさめた新作能である。2020年早春からつづくCovid19 と全人類との闘いで日本中が疲弊していたとき、美しい京都の自身の生まれ育った豊かな桜の花や季節の彩りをみながら、世界中が困難な時代に「能楽は何ができるか、自分はどのように世の中に貢献できるか」と大いなる問いに対峙して思案するうちに、ふと天啓を受けた。海をわたる女神の媽祖の物語である。その話は台湾の友人が二十年前に新作能『媽祖』をと勧めてくれたときからの長年にわたるやり残した宿題のひとつであった。思い立ってからはすべてが奇跡のように早く進んだ。 新作能『媽祖』は小説家玉岡かおる氏に依頼した原作台本で、片山九郎右衛門の企画・指揮・型付・節付・補綴となる。『媽祖』は、虚構として舞台を日本の天平時代に設定し仏教的世界観、人々への救済や慈愛心をそこに導入しながら、数多くの媽祖伝承をもとに黙娘から女神媽祖へ変貌する、そこには二人の従者千里眼と順風耳とが付き従うという能の作品である。海の女神『媽祖』の新作能は、海をこえたグローバルな全世界への平和の祈りというテーマを含む。
その作品が2023年1月に再び生まれ変わる。新作能は常に詞章の流動や所作の変更新演出などが伴うものであるが、京都版媽祖とは異なる新バージョンで、小田原劇場版シン新作能『媽祖』という形態をとり、小田原三の丸ホールで開催される。それは海の女神のテーマと同じであるが、江之浦測候所の光学硝子舞台という場所がもたらした奇跡的な空間であり、世界的に著名な現代美術作家杉本博司が映像監修をされ、杉本ワールドとの空間コラボレーションともいえる。小田原バージョンでは劇場版という言葉通り、現代一流の能役者が登場するがその舞台は所作板も無く、床面・壁面「黒」づくし、そのブラックBOX の劇場空間の中、高さ3m ×横幅8m のLED パネルを配し、背景映像とともに能のライブパフォーマンスを繰り広げる。その映像コンテンツがシテ方のリアルな舞とシンクロする。古典的な世界が現代の技術革新によって変貌していく過程である。片山家の伝統を守り、家にある能面・装束なども含めて『媽祖』は変貌を遂げている。九郎衛門の挑戦、能への熱き思い、今後の能への新たな闘いが続いていく。