2014年度 公開講演会 発表例会
開催日:2014年12月6日 場所:東洋大学白山キャンパス 6311教室
2014年度 公開講演会 発表例会
開催日:2014年12月6日 場所:東洋大学白山キャンパス 6311教室
密教と曼荼羅思想
講演者:小峰 彌彦 氏(大正大学教授)
〔講演要旨〕
密教は後期大乗仏教に属するといわれながら、大乗とは異なる特徴を複数に亘って持っている。それ故、単に大乗仏教とは言い切れず、密教のとらえ方は案外難しい。今回の講演では、その把握しにくい密教を転法輪という視点から、私なりに述べたいと思っている。言うまでもなく仏教の歴史は、絶え間ない転法輪の営みにある。その転法輪の歩みの中で、特に大きな展開が初転法輪・第二の転法輪・第三の転法輪である。具体的には釈尊による仏教の開示、般若経による照法輪、『解深密経』の持法輪と称されるものである。この三法輪の中で、私は第三の転法輪は密教であり『解深密経』の持法輪ではないと考えている。なぜなら転法輪とするには欠かせない条件があるが、持法輪はそれが十分に具わっていないと思うからである。私が思う三つの転法輪とは次のものである。
転法輪 根源 経典 推進者
初転法輪 甚深法 阿含経 声聞
第二転法輪 深般若 般若経 菩薩
第三転法輪 秘密 大日経 金剛手
まずこれら三転法輪に共通することは、それぞれがより深い悟りの境界を基盤とし、それを基盤とした経典を示し、さらにその内容をきちんと解釈する論書を制作していることである。たとえばアビダルマ論書、『大智度論』、『大日経疏』などである。そしてこの法輪を転じ推進していくものとして、声聞・菩薩・金剛手という役割にかなった人格者を掲げたのである。
言うまでも無く大乗仏教は、慈悲に基づく現象世界における衆生救済を目的とし、六波羅蜜行を菩薩行とする利他行の実践を展開した。それに対し密教は釈尊の宗教体験に眼を向け、三密行の実践をなすことでより根源的な悟りの獲得に努めた。そして三密行によって得た甚深秘密の内容を、曼荼羅として示したのである。曼荼羅によって示された教理は、それまでに展開してきた仏教を俯瞰し、総合的な視点を持つものである。それは大乗仏教が法華経・華厳経・浄土経典などを掲げた専門的個別的な衆生救済運動であるのに対し、密教が求めたものは大悲心を基盤とした悟りへの方向性である。
曼荼羅は密教が捉えた甚深秘密の世界を提示したものであり、密教理解のためには曼荼羅が如何なるものであるかを見極めることが肝要である。