平成22年7月3日 東洋大学白山校舎6311教室
平成22年7月3日 東洋大学白山校舎6311教室
ヒンドウー建築論において用いられる単位とその長さについて
出野 尚紀 客員研究員
インド数学は、一般に「十進法の位取り記数法の発明」をしたと言われるが、単位体系は八進法を使用していた。十進法よりも異なる単位の大きさを比較する計算が複雑になる八進法を使用した理由を考察するべく、単位についての記述があり、建築論と関連性が深いので、実利論 Kauṭilīyārthaśāstra と占星学の Bṛhatsaṃhitāそして、北インド建築と関係が深いヒンドゥー建築論書Mānasāra Samarāṅgaṇasūtradhāra、南インド建築と関係が深いヒンドウー建築論書Mayamata Aparājitapṛcchāの合わせて、六書の記述をもとに単位体系と単位使用基準を検討した。
八進法の単位体系は、単純分割のくり返しであるので、紐などを使って簡単に目盛りを刻むことができるという利点が上げられる。一方、十進法は単位が変更の際の計算が八進法よりも容易であるが、ヒンドウー建築論書の定義のように、建てるたびに基準が変わる場合、毎回それに合わせた定規を準備する必要がでることを考えると、日盛りを容易に刻める八進法に軍配を上げることができた。また、アングラより小さい単位は、基準の長さであるアングラを宗教規範の記述と整合性を保たせるという役割があると思われる。
単位使用基準においては、大まかな流れではあるが、時代の変遷につれて、使用単位をより少なくかつ簡便にという方向性が見える。これは建築論が作製された地域による変化は見られないようである。また Mānasāraと Mayamataではダヌルグラハを最大とする単位が、 SamarāṅgaṇasūtradhāraとAparājitapṛcchāでは、さらに長い早)位であるヨージャナを使用するようになるなど、計測するときの実情によりあった単位使用方法に変化している。
ヒンドウー教の建築論書において、これらの諸単位の記述は、実際の利便性と対象物の基礎となる長さの定義との整合性を両立させることを目的としている。そのため、絶対単位の大きさにおいては、諸文献の間に違いがあまり見られない。しかし、使用単位細目については、実情に合わせた記述となっており、現場での判断が発揮できるようになっている。それにより、単位体系がヒンドウー伝統思想と実際に使う単位との整合性を保たせるための、使用基準がそのものの大きさがどの位の長さを基準としているのかを説明するためのものであるということが確認できた。