平成19年12月15日 東洋大学白山校舎3203教室
平成19年12月15日 東洋大学白山校舎3203教室
因果関係としての認識
インド・ヴァイシェーシカ学派の認識論と因果論の相関関係
三浦 宏文 奨励研究員
インド・バラモン系正統派六派哲学の一つであるヴァイシェーシカ学派を体系化したプラシャスタパーダは、因中無果論と いう因果論を認識論に積極的に取り入れて緻密な体系を構築した。本発表では 、 彼の主著『プラシャスタパーダ。バーシュヤ』(A. D. 6C.) における認識論と因果論の関係について 、 プラシャスタパーダの諸注 釈の中で因果論に関して最も言及しているヴィヨマシヴァの『ヴイヨ マーヴァティー』(A. D. 10C.)を参照しつつ考察した。 まず 、 楽・苦・欲求・嫌悪といった感情的な精神活動や善・悪といっ た倫理的なものは全て「意識と自我の結合」という非内属因を共通の前提として 、 それを特定する動力因が決定してから生じる。すなわち、 これらは完全にシステマテイツクに因果論的な関係で説明されている のである 。 これは認識論にも共通している 。 直接知覚や記憶 、 そして 聖仙知において生じる知識も 、 同様に「意識と自我の結合(ないし接触)」という非内属因を前提として 、 その知識を限定する動力因が決 定してから生じる 。 推論も 、 「徴証を見る」ことを前提として 、 その 知識を限定する特定の動力因が決定してから生じるのである 。 すなわ ち 、 精神活動や認識は 、 全て因果論的な関係によって整理されている のである 。 これらのことを踏まえると 、プラシャスタパーダの体系で は 、 認識のシステム=因果関係のシステムという規則が成り立つことになる 。
さらに 、 この因果論において原因の区別をカテゴリー論と照らし合わせてみると 、 以下のことがわかる 。 まず直接原因とされる内属因は 、 実質的に実体カテゴリーである。そして、間接原因の一つである非内属因 は 、 実体に内属する原因であるので 、 これは運動や属性に なる 。 前述した精神活動や認識論の共通の非内属因も 、 「自我と意識の結合」すなわち「結合」というカテゴリー であり 、 「彙哭こはヴァイシェー シカ学派のカテゴリー論では 属性になるのである 。 さらに 、 もう一つの間接原因である動力因は 、 それぞれの認識結果を決定する具体的な諸観念である。このようにみてくると 、 この因果論における原因の設定が 、 きちんとカテゴリー論に対応していることがわかる。したがって、プラシャスタパーダの体系においては 、 原因の区別=カテゴリーの区別という規則が成立する。 ところで 、 ヴァイシェーシカ学派においては、カテゴリーに関する誤りのない知識を得ることは解脱に繋がっていく。したがって、プラシャ スタパーダが原因の区別に非常にこだわっていたのは 、 原因を区別することはすなわち解脱に繋がっていく自派のカテゴリーを間違いなく区別することと同じことであったからなのである。