去年の12月に結婚したら、今年の1月に国勢調査があった。僕もコロンビアの住人の一人として計数された。コロンビアの国勢調査は5~6ヶ月かけて行われ、この三月には終わった筈だが、結果は聞いていない。みんなはボゴタの人口を約800万と言う。インターネットのあるページの情報では、2001年の調査結果だが人口670万で南米ではサン・パウロについで2位、世界の17位にランクされている。いずれにしても大阪の倍以上の人口を抱えた大都会だ。
ボゴタ市の中心街を走る荷馬車
この大都会に電車、地下鉄はない。その代わり15席ほどのミニバスから大型バスまでが市内を縦横に走っている。市内の道路は主要道路を除き、殆ど全てが一方通行になっていて交差点での左折は原則的に禁止されている。主要道路は両側8車線以上ある大道路が何本も設けられている。市内の各所が大阪の御堂筋以上の道路で結ばれているのだ。その交差点は立体交差で円形のランプが設けられているので、道路網及び道路構造は大阪以上だ。しかし、この道路上を無数のバスとタクシーが走る。日本から遊びに来てくれた友達が、「ボゴタの道路はバスばっかりでんなぁ」というほどバスが多いのだ。だからBMWを売り払って足をなくした僕であっても、どこへでも簡単に行けて便利だ。しかもバスは市内はどこへでも50~60円の一定料金で乗り放題だ。僕はボゴタの市境界の貧民地域に住んでいて、主要道路から家までは未舗装の道路を1kmほど歩かなければならない。風が吹くと土埃が舞い上がり、雨が降ると泥道になって真っ直ぐには歩けない。だが、近所にバス・ステーションがあって、行き先の違う5社のバスが行き交う。ボゴタのバスは、主要道路にはバス停が設けられているものの、どこでも停まってくれる。だから家を出ると、市内の主要場所まではタクシーのようにまるでドアー・ツー・ドアーの移動が可能だ。ボゴタではバスでの移動は便利だが、歩くとなると大変だ。交通信号が少ない上、歩行者用の信号は殆ど設けられていない。青信号で横断歩道を歩き出しても、右折車が歩行者を無視して突っ込んでくるから、道路の横断は命がけだ。指示器を出さないのは当たり前。交通規則はないに等しい。だから接触事故は後を絶たない。市内中心部の高層ビル街にも荷馬車が走る。道路は混乱の極みだ。こんな状況を少しでも改善するため、ボゴタ市は二両連結のバス専用道路を2001年に建設した。このバス路線はTransMilenioと呼ばれ、4街区毎くらいに立派な駅がある。ボゴタ市はこのバス路線を拡張しようとしている。使用されているバスは全てディーゼル・エンジンを搭載している。環境負荷は高いはずだ。
二両連結のバスTransMilenio
僕はペルーの旅行から帰ってきてから半月かけてホームページの邦文記事を10冊分印刷した。個人的な本として製本屋に注文し終わったので、5月2日に今度はリクライニング式の座椅子を別注しようと家を出た。だが、近所のバス・ステーションからもバスは来ない。主要道路に出て待っていても、普段と比べ全くバスの数は少なく、時々長距離バスが通り過ぎるだけだ。いくら待ってもバスが来ないので、マリアがその辺にいる人に理由を尋ねた。市内バスのストライキだという。マリアは職場に電話した。急遽休暇になったので二人でそのまま家へ戻った。翌日、座椅子を注文するため再び家を出た。途中で携帯電話でしゃべっている男がいた。マリアの話では、男はバスの運転手で、「昨日、スト破りで走っていたバスをFARC(Fuerza Armada Revulucionaria de Colombia)というゲリラ組織が攻撃して燃やしてしまうと言っている。今日はさらに食糧運搬用のトラックも止めるようだ」と言っているらしい。仕方がないので、また家へ帰った。ストが行われたのは民間のバス組合が、市役所によるTransMilenioの路線延長が自分たちの仕事を奪いそうだと考えているからだ。しかし、実はもう一つ理由がある。それは市長が最近、ボゴタのひどい大気汚染を軽減するため、1990年以前から走っている古いバスの運行を禁止すると発言したからだ。ボゴタでは、バスに限らず乗用車、トラックも日本ではプレミアが付くほど古いクルマが現役で走っていて、真っ黒な煙を吐き出しているものも多い。古いバスの運行を禁止するとバスの数は半減するという。これに対しバスの組合は、大気汚染の原因は、コロンビアは石油の産油国なのに、そこで生産されるガソリンの質が悪いためでもあると反論している。それに、TransMilenioのディーゼルエンジンの問題を棚上げにするのは、我田引水の感がしないでもない。
テレビでは一日中、ストライキのニュースを流していた。僕は未だにスペイン語が聞き取れないので、何が起こっているのか良く分からない。でも、市内の各所の様子が映し出されて、そこでは住民と警官隊が衝突している。警官は日本の機動隊と同じ重装備だ。金属製の盾を持った警官に、投石はおろか棒を持って殴りかかっている住民もいる。日本ではもう滅多に見られなくなった光景だ。しかし、ここの警官は日本の機動隊よりおとなしい。住民の圧力に押されてあとずさりしたり、中には銃を手に持ちながら逃げている者もいる。コロンビアはゲリラの国だ。首都ボゴタにも多くのゲリラが潜んでいると言われる。辺境の地では、未だに政府の軍隊とゲリラの戦闘が行われている。コロンビアは、まだ貧困で失業率も高い。そして多くの人は、将来のことよりも今日、仕事よりも酒を飲んでダンスをする方が大事だと考えている。仕事を頼むと、「明日こそは」と嘘ばっかり言っていつまで経っても終わらない。仕事に関しては死人同然だとさえ思う。しかし、ストを契機に沸き起こったこの暴動のエネルギーは何だ。日本を思う。最近、沖縄の米軍基地移転費用の6割まで日本が負担することになった、とテレビのニュースで?た。コロンビアではきっと大暴動になるだろう。