(1)2001年8月4日 Saskatchewan州Saskatoonからのメール
午後の7時前です。今、ビールを飲み始めました。ビールは小瓶6本750円位払いましたが、アルコール分は6%なのでなかなか良く効きます。毎晩ビールを2~3缶飲んでいるので、出発前には2ヶ月もするとビール腹も引っ込み、もう少しはライダーとして恥ずかしくない体形になるのではと期待していましたが、残念ながらあのままです。きのうのモーテルに6.1%のビール一缶と飲み残しのジュースを冷蔵庫の中に置いてきてしまいました。初めての忘れ物です。
きょうは8月4日、日本を出てからちょうど二ヶ月になりました。いつもの倍の期間ですが、走行距離はまだ8000kmなので一番距離を出したオーストラリアに及んでいません。それでもこのペースで走ると、世界一周なんてすぐ終わってしまうのでモントリオールへ着くとペースダウンするつもりです。すこし急いできたのはカナダの夏が短そうなためです。この前、自慢のコンピュータ地図でこの辺りの緯度を調べてみました。樺太の北の端です。ついでに見てみると、最初の旅行で行ったロンドンはもう少し南で樺太の真中辺り、スコットランドのエディンバラは樺太を越えてカムチャッカ半島の真中くらいです。エディンバラの日暮れは11時頃でした。この辺りは10時半くらいです。そう考えると大して北には来てないんだなと思います。きのうの夕暮れにモーテルのオバさんに、オーロラは頻繁に見えますかと聞いたら、いいえと言ってましたので期待薄なようです。アメリカで遭った「石」の専門家が、オーロラはこの世の中でも一番美しいし、この辺りまで来るとチャンスは大きいと言っていたので楽しみにしていたのですが… カナディアン・ロッキーではニュージーランド以来、10年ぶりに(ユース)ホステルに泊まりました。
Lake Louise の豪華な(ユース)ホステル
宿泊料は2000強でしたが設備は抜群、立派の一言でした。4人人部屋で、二人はスイスの若いカップルでレンタカーで旅してました。ホステルはキャンプ場と違って若いベッピンさんも多いし、味をしめて次の宿泊にも他のホステルを覗いて見ましたがイマイチで止めました。 カナディアン・ロッキーでは観光バスに乗った大勢の日本人観光客を見ました。それも大勢の若い人達です。最近はアメリカやカナダでも韓国、中国系(台湾、香港?)の観光客もよく見かけます。やはり団体です。欧米系はカップル、アジアは団体なので、みんなが一人で旅をしたヒッピー時代にまだ憧れるオジさんとしては、ここ20年の旅は寂しい限りです。 きのうのモーテルで、長距離電話でインターネットに接続しようとしてもできないので、事務所のオバさんにその旨を伝えると、隣室にいつも使っている人がいるから聞けといいます。さっきドアの外にいた太ったオバさんかな、と思って行ってみると、Oh!びっくり仰天、若いベッピンではありませんか! 彼女はEメールは図書館やインターネット屋でしているのでパソコンの接続は知らないが、どんなもんかちょっと見てみましょうか、と僕の部屋に入ってくる。「プロバイダーに接続しようとしたら、Hello?…とか言う人間の声が返ってくるんですが…」と言うと、彼女直接電話局に電話したり、インターネット関係の所に電話したりしてくれましたが、結局プロバイダーのあるEdmontonでは世界陸上(?)やその他の行事が重なっていて電話がパンクしたからだろうということにして諦めました。彼女の7号室は彼女の自宅兼会社員なのに職場になっていて、この付近の農場主と交渉して油井のドリルを入れるのが仕事らしい。この地中には石油がいっぱい眠っていると彼女は言う。「お礼に夕食をご馳走します」と言うと今日は済ませたから明日は必ずという返事。その明日になったら、「ウン、ちょっと食欲がないんですね…」。言うてますやろ、「ローマの休日」みたいなことが起こるのは美しい人だけで、実際の旅は孤独で、特に短足の醜いオジさんにはそんなことは一年に一回の起こらないと。また一夜の夢でございました。
話を元に戻します。ロッキーでしたね。
最初の二日は天気も良く、キャンプサイトに電気があったので、陽光を浴びながらルンルン気分で書きものをして過ごしました。ホント、この十年間の旅はエスペラントに捕まって、裏町を飲み歩く時間がなく部屋に閉じこもったままなんです。特に今回はモーテルを出るのは餌を買いに行くときだけで、しかも本を読む時間もありません。でも、決して苦にはなっていないんです。みなさんにお届けした旅日記、今日お送りする「カナダへ入る」まで全て英訳を完了しました。これからまだ、インド人からどうなってんやというメールが届いたので「Royal Enfield 混沌を走る」を英訳し、さらにエスペラントで書いたままの12のエッセーを英訳するつもりです。日本の友人のみなさまもそうですが、外国の人達からも「おもしろい、もっと読ませて」とお世辞の言葉をたくさんもらっているので、いよいよやる気になってきてしまいました。やっぱり教育に限らず多くのの原点は、批判ももちろん大事やけど、「おー、エエやんけ!」から始めるべきやと思います。そう、3日前にとうとう53才になってしまいました。こんなオッサンでも、「おー、エエやんけ!」には滅法よわいんです。 また脱線しました。今回の北アメリカのハイライト一つと期待していたカナディアン・ロッキーでした。
Lake Louise にある Moraine 湖。カナディアン・ロッキーで一番美しいと言われる。
Lake Louise の北、カナディアン・ロッキーの中ほどにある Colombia Icefield の Athabasca 氷河
バンフの二日間を除いては、雨が降ったり曇ったりして寒かったりしたので、足早に通り過ぎました。でも一週間いたので四つの国立公園は全て走り抜け、日本のライダー諸君には申し訳ないけどライディングの醍醐味は十分満喫しました。ないですよ、あんな所は日本には。バンフからジャスパーまでだけでも250kmほどあって、氷河を抱いた槍ヶ岳の連続する高峰をずっと左右に見ながら、ガラすきの山道を110kmで走るんですよ。 ロッキーから東へ出ると、360度開けた農地がイヤというほど続いています。もう少なくても700kmはそんな状態です。これがモントリオールまで、まだ2000kmほど続くと思うと、少々退屈ですが、でも思います、地球が本当に「ソイレント・グリーン」の時を迎えてもカナダは大丈夫だと。エエッ、北海道? 50キロの直線道路? 僕は北海道だけはまだ行ったことがないけど、そんな小さいこと言わんと着ましょヤ。平野に下りてきて毎日快晴です。百姓が困っているくらい晴天が続いているらしいんです。皮の鎧も少し暑さを感じます。でも、日本のように湿気がないので走り出すとバッチリ快適で、脱ぐのはもっと南へ行ってからのようです。ビール、小瓶2本飲んでしまいました。 最後にモーテル代。カナディアン・ロッキーはもちろん高く、どっかのモーテルに落ちていたホテル案内帖には一泊5~6万円のホテルもゴロゴロありました。安いところでも、おそらく一万円ではないと思います。僕は聞くことすらせず、雨を恐れながらテントを張りましたが。しかし、ロッキーを出て最初に泊まったモーテルは、先の案内帖で一番安かったところですが、2500円ほどで今回の最低(僕にとっては最高)価格でした。きのうは3000円、きょうは4000円です。アー!早よメキシコまで行かんと破産する。
旅をするのにも衣食住は欠かせない。まず衣から始めよう。パンツ、靴下、長袖のTシャツ、Tシャツ、それぞれ3枚持ってこようと思っていたが、最後の最後にその辺に残っていたものをバッグに詰め込んでしまった。モーテルに泊まると、シャワーを浴びる時ついでに足踏み洗濯するので、やはり3枚で足りている。擦り切れて使えなくなったときには必要だが、今のところは荷物になっているだけだ。これに皮ジャン、皮パン、
皮ジャン、皮パンに身を固める
Gパン、肩パッドを装着するための夏用のベスト、肩・肘・脛用のパッド、ブーツ、ビーチサンダル、廃ペットボトルから造られたと言われている厚手の上着、化繊のライダージャケット、汗をかくと発熱するという長袖のシャツ・タイツ・手袋・靴下、それにカッパが加わる。厚手の上着とライダージャケットはロッキーの寒いキャンプ場で役に立ったが、発熱の下着類はまだ一度も使っていない。カッパは幸いにして一度使っただけだ。時計も身にまとうものだから衣に入れるとすれば、Gショックの方位計付き時計を持ってきたのは失敗だった。嵩張るし皮ジャンの上に装着するのは面倒だから、まだ一回しか付けていない。第一、BMWには立派な時計が装備されていたのだ。方位計はクルマ用の380円のものを細工してハンドルに取りつけたので、この方がずっといい。寝袋は衣になるのか住になるのかわからないが、夏用と春秋用の二枚にしたのがよかった。寒い夜は二枚使えば本当に暖かい。一方、バイクの服と言えばバイクカバーだが、嵩張るので買わなかったが、雨に曝される姿を見るとかわいそうになったので、厚手のビニールシートを買ってゴムで四隅を止めるようにした。また、バイクは衣類を洗濯した時物干し竿がわりにするので、その時きれいに拭いてやる。だから長旅の割りには小奇麗になっていることが多い。そのためか、みんな「いいバイクだ」と誉めてくれる。 食は、テントの場合、必ずしも近くとは限らないが、キャンプ場付近のスーパーマーケットで食料や酒類を買い込む。スーパーにできあいの料理が置かれていれば、それにする。今回はサラダがあれば必ず買うようにしている。キャベツを湯通ししたものにマヨネーズを加えたものが、僕の大好物だ。ビールのツマミにはスパニッシュ・ピーナッツがいい。スーパーがない時は、ほとんどのガソリンスタンドにはコンビニがあるので、そこでハムやサラミを買いビールで胃に流し込む。朝食は牛乳とパンが多い。町のモーテルに泊まると、どうしてもレストランで食べることが多くなる。レストランはアルコールを置いてないところが結構多いのでつまらない。それにほとんどのレストランは禁煙だ。だからバーがいい。朝食にはベーコン・エッグが一番いいのだが、なぜか今回はこれに当たらない。ファーストフードの店で、朝からスープを出しているところがあった。ベーコン・エッグもこれにはかなわない。バイクの食のガソリンはBMWの支持によりハイオクを与えている。アメリカでもカナダでもリッター60円くらいだ。レギラーだと、10円ほど安くなる。
住はテントかモーテルだ。
ナット・キング・コールの歌で有名なルート66沿いの "Route 66 Motel"
テントはロッキー等の山の中で多用した。カナディアン・ロッキーを出てからは一度も使っていない。モーテルはホテルよりも便利だ。モーテルだとドアーのすぐそばにバイクを止めておけるので安心だし、一階建てが多いので、ホテルのように重い荷物をロビーから廊下と運ばなくていい。モーテルでも、レストランのあるところが安いようだ。バーが付いていれば最高だ。アメリカやカナダでは最低価格のモーテルでも設備、清潔度の面で、全く問題はない。アメリカのモーテルの値段は安いところで、シングルが3500円~6000円といったところだ。カナダではこれより2~3割安くなる。バイクはずっと野ざらしだ。しかし、アメリカもカナダも盗難の心配はなさそうだ。鍵は3種類持ってきたが、街中のモーテル以外は使っていない。それも一つだけだ。メキシコ以南に行くと、ホテルには建物に囲まれた中にはがあるのでもっと安心だ。インターネットでトロントのエスペランティストの連絡先を手に入れ、メールを送ったらすぐに返事が来て、一人がアパートに泊めてやる言ってきた。見ず知らずの旅人なのに、ほんとうにありがたい。エスペランティストは世界中にいるので、心強い。 僕の場合、衣食住に次いで欠かせないのがタバコと酒だ。タバコはアメリカでは日本よりも安い10箱2000円くらいのものを見つけたが、カナダではどの種類のタバコでも同じ値段で、200本が3500円から場所によっては4000円する。カナダでは一箱25本入りばかりのようだ。だからと言うわけではないが、今は一日一箱、25本吸っている。ライターは強風時のことを考え、使い捨てターボ式のものをいくつか持ってきたが、気圧の関係なのか、なぜか高度の高い所ではどれ一つ着かなかった。25本吸うタバコも、日中はバイクに乗っているので4~5本くらいしか吸わないが、バイクを降りてパソコンに向かって文章を書き出すと、一気に本数が増える。特にビールやウィスキーが横にあると、タバコを酒のつまみにしてしまうのでどうしようもない。ビールはアメリカでは小缶一本100円くらいだったが、カナダでは150円くらいしている。ウィスキーは安いもので、1300~1500円くらいだから、日本とあまり変わらないのだろうか。日本では4リッター1380円の焼酎ばかり飲んでいたから、安ウィスキーの値段はよくわからない。旅に出てもう二ヶ月以上になるが、まだ酔っ払うほど飲んだことはない。したがって、二日酔いはない。今回は今までのところ部屋に閉じこもりきりで外に出ず、ひょっとしてつまらない旅になっているのかもしれない。ただ、アメリカやカナダのバーにしても日本ほど活気はなく、お年寄りが多くみんな暗い顔をして沈んでいることが多い。メキシコ以南に期待しよう。
旅は、移動しなければ旅にならない。僕は10年ほど前から、バスや汽車を止めバイクの旅に変えた。いつでもどこでも自分の思うところに行けるので最高だ。バイクに出会ってなければ、ひょっとして今ごろは旅を止めていたかもしれない。今回は1100ccのエンジンを積んだBMWR1100Rだ。
今までの最大のエンジンは650ccだったので、ほぼ倍の大きさである。やはり、パワーがある。重戦車の如く力強く走る。車重も重いのとウィンドシールドも付いているので、風に飛ばされにくい。ギヤーをローに落としていなくてもなかなかエンストはしない。シャフトドライブなので給油は不要だし、チェーンやスプロケットの交換も要らない。クラッチワイヤーもシリコンでコーティングされているので、給油は要らないらしい。オーストラリアでは、あの時だけレンタルバイクで、店から500km毎にエンジンオイルを交換してくれと言われ本当に面倒だった。6000キロくらい走った時にスプロケットは手裏剣の状態になり、交換に難儀した。その点、R1100Rはクルマに近い、メンテナンスフリーのバイクだ。ただ、エンジンオイルは一万キロで交換するつもりだ。それでオイルフィルターを6個も買ってしまった。これまで一万キロほど走って、前輪タイヤはまだ大丈夫だが、後輪タイヤはもう寿命だ。モントリオールにはBMWの店があるので交換してもらうつもりだ。サスペンション、ブレーキ、ドライブシャフトの各オイルもメキシコに入る前に交換しようと思っている。そのとき両輪のタイヤも交換しよう。中米以南は部品の交換に二週間は待たされるらしい。日本から持ってきた積載工具は、バイクを倒した時バックミラーが横を向いてしまったので、その時使ったきりだ。ヘキサのステンレスのネジを使っていた。やはり高級バイクだ。R1100Rには、チューブレス・タイヤ用のパンク修理キットまで標準で装備されている。 R1100Rで苦労したのは荷物の積載だ。
後部座席の荷物の積載
中古で買ったこのバイクには、ハードプラスチックのサイドバッグが付けられていたので、そこにテント、寝袋、エアーマット、スペア部品、積載工具、カッパを入れている。残りの荷物が問題だ。衣類、カメラ用部品に加え、今回はパソコン関係のCD(約50枚)や全世界対応の電源プラグ、電話回線アダプター、モデムカード、モデムチェッカー等を持ってきている。日本を出る時には、スキー用のバッグと登山用のリュックサックに分けて運んできた。メインのスキー用バッグの方は、バンジーコードですぐにバイクに取りつけれるように細工していたが、登山用バッグに入っていた荷物をなんとかしなければならない。そこで、サドルバッグの上に乗る少し大きめのスポーツバッグを買って、プラスチックのバックル五箇所に取りつけ、これでスキー用バッグにワンタッチで脱着できるようにした。今のところバックルを付けた布性のベルトの取り付け部の糸は、しっかりと両方のバッグに付いている。いまになっては後部座席の上にプラスティック・ケースを取り付けるよりも良かったと思っている。問題はこれからの耐久性だ。最後はパソコン本体だ。振動を避けるため、CD-RWドライブとLANカード、デジカメ映像取り込み用のPCカード、それに全世界対応のモデムカードは、防水のプラスチックケースに収納し、皮製のナップサックに入れて背負うことにした。トイレへ行くでもいつも背負っているので、盗難の心配はない。書籍や紙の地図はタンクバッグに入れて、すぐ取り出して見れるようにしている。 バイクで海外を旅するには、国内免許の他に国際免許も必要だ。国内免許がないと陸運局が国際免許を発行してくれないし、メキシコのようにジュネーブ協定に加入していない国では、国際免許は役に立たない。メキシコの警官は漢字で書かれた日本の免許証を見せたら、なぜか納得して難を逃れたことがある。アメリカやカナダではまだ一度も警官のお世話にならず、したがって一度も国際免許の提示を要求されたことがないが、中米以南では小遣い稼ぎの警官が道路に俳諧しているらしい。副業のための口実を与えないためにもやはり国際免許は必要だ。ところが、この国際免許の有効期間は一年しかなく、日本の役所は帰国して更新するか、本免許を身内に送って手続きを代行してもらえ、と難儀なことを言う。郵送途中免許証が消えてしまったら大変だから、こんなことはしたくない。そこで今、アメリカの二輪免許を取ろうと考えている。カリフォルニア州の免許証の有効期間は5年で、国際免許の発行、更新は日本のJAFに当たるAAAがやってくれる。外国人ライダーが京都で国際免許をなくした時、ルイジアナのAAAが新しい国際免許証を郵送ですぐ送ってきた。今、テキサス州の免許制度についても問い合わせている。もう一つ書類が要る。カルネと呼ばれる書類で、これを持っていないと各国で高い関税をかけられる。、中南米では要らないらしいが、ヨーロッパでは要る。出国前に、インターネットで問い合わせたら、カナダの自動車協会であるCAAがオンラインによる手続きとクレジットカードによる経費の支払で発行してくれることを確認している。でも、モントリオールで事務所を覗いてみようと思っている。
バイクの準備が整っても、地図がなければ道がわからない。紙の世界地図は嵩張るので、ノートパソコンに世界地図ソフトをインストールした。地球全体から都市まで、自由に拡大・縮小、スクロールができる。大都市なら、住宅地図とはいかないが主要な道路や建物等は載っている。都市の写真や説明まである。世界各地の経緯度や時刻もわかる。ほんとうに便利だ。しかしバイクに乗っている最中に、バックパックからパソコンを出して軌道をかけるのは面倒だから、行く先々で紙の地図を手に入れ、それを見て走っている。メキシコを含めた北米の地図帳も、7年ほど前にアメリカを走った時に買ったものを持ってきている。 これだけ準備しても、お金がなければ旅はできない。世の中、便利になった。20年以上前はクレジットカードもなく、お金は全て、旅行者小切手を持って歩いたものだ。それでも盗難を恐れ、帰国の航空運賃代だけは高額の小切手をGパンの隠しポケットに忍ばせていたものだ。今は銀行カードとクレジットカードがあるので、お金を持ち歩く必要はない。アメリカやカナダではほとんど何でもクレジットカードで支払うことができる。アメリカではガソリン代は全てクレジットカードで支払った。給油機にカードを通すだけで済むので、重宝した。しかし、僕は小額のものはだいたい現金で支払うことにしている。円建ての銀行口座があれば、世界中で自動支払機から現地通貨を引き出せる。僕はシティーバンクのカードを持っていて、引出し手数料は無料だ。出国してから県民税を払えと言うお達しが届いたので、インターネット・バンキングで送金した。クレジットカードの支払額もわかる。
これで僕の旅のための基本条件は整った。旅をすると、知らない土地を見るのも楽しみだが、同じように旅をする人達やそこに住む人々と出会ったり、知り合いになるのも楽しみだ。そうは言っても、バイクで旅をするといつも一人なので、そんなに多く人と会うことがない。特に今回は、モーテルやキャンプ場のテーブルでEメールや旅日記を書いてばかりいるので、なおさらだ。それでも旅の途中で何人もの人と出会った。彼等とはEメールの交換をするので、またまた外に出る時間がなくなる。それでまた人と会う機会がなくなる。悪循環だ。しかし、僕にはエスペラントがある。人に会いたくなれば、世界中にまだ知らない友達が待っていてくれる。
人と会って友達になるためには、やはり言葉が大事だ。事実上の国際語である英語は、いまだに勉強を続けている。理論上の国際語、エスペラント語は今までどおり旅の話を書き続けるし、会話はこれから行く先々でエスペランティストと交流して、腕でなく口を磨くつもりだ。エスペラント語の本も4~5冊、パソコンのCDにコピーしてきている。スペイン語は十数年勉強したが、10年前に止めすっかり忘れてしまったので、ガテマラでもう一度勉強し直すつもりだ。言葉の勉強で必要なのは辞書だ。英―和―英、英―西―英のコンピュータ辞書はアメリカから買った。エスペラント語はインターネットから無料のものをダウンロードしたが、語彙が不充分なので、紙の辞書をコンピュータにコピーし検索用の目次を付けた。国語事典は広辞苑のCD版を持ってきている。辞書代わりにもなるので、百科事典もインストールしている。
未知の土地や人々に接すると、それを記録に残し、誰かに伝えたくなる。文章もその一つだが、写真も捨てがたい。今回の旅には、四年ほど前に買ったポケットサイズのビデオデジカメを持ってきた。動画で撮影すると一秒間に20コマ以上の映像が撮影できる。これをコンピュータにコピーし、気に入ったコマだけを静止画で切り出し、ディスクとCD-RWに保存している。大阪エスペラント会には、機関紙とホームページ用に書いている記事とともに、保存された写真の中から記事に関係する写真だけを取り出し、大阪に送っている。
最後は娯楽だ。本はこちらでも買えるので洋書四冊と訳本の文庫本一冊にした。洋書の一冊はアメリカにおけるバイク・ツーリング道路の案内書だが、本に紹介されていないルートを取ってきたので、重いだけで何の役にも立っていない。テキサスに着けば、ライダーの友達にあげるつもりだ。これでは目が満足しても、耳は許してくれない。ちょっと嵩張るが、家にあったCD約200枚を25枚程度に圧縮して持ってきた。ジャズ、ラテン、ポップ、クラシック、それに歌謡曲が収録されている。一年ほど前から高橋真梨子に惚れてしまい、彼女のCD10枚ほどはディスクに落し、コンピュータに電源が入ると必ずと言っていいくらい聴いている。美しい声と発音、深い意味を込めた歌詞で何回聴いても飽きない。
一日が終わり寝床につくと、超小型のトランジスターラジオでFMを聴く。おしゃべりやCMも入るので、英語の勉強にもなる。今日もそろそろFMの時間が迫ってきた。