NHK衛星放送の「世界の天気」を見ていると、時々ボゴタの週間天気予報が出ます。いつ見ても毎日雨です。そのとおりで一年中ほとんど毎日、朝はいつも青空が広がっているのですが、夕方になると10分から20分ほどの夕立があります。ボゴタは北緯5度の熱帯にありますが、高度が2600mもあるため、涼しい、というより夜は寒いくらいで、日本のように四季はなく気温は一年を通じてほぼ一定しています。それでも土地の人は10月と11月は冬だと言います。10月12日にボゴタに帰ってきたら雨が降っていました。それから1ヵ月半、ほとんど毎日雨が降っています。それも夕立ではなく日本の梅雨のような長雨です。そして土地の人が冬と言うように気温が下がりました。皮のジャケットの下に薄手のセーターを着たくらいです。
僕が住んでいる所は、ボゴタの西の市境界で、空港の滑走路の隣です。聞くところによると、人が自然発生的に集まってきて住み付いた結果できた地域だそうです。そのためか、ボゴタは首都なので道はほとんど全部舗装されていますが、この地域は未だ舗装されていません。しかしながら交通の便はよく、近くにバスのターミナルがあって5社のバスがひっきりなしにその未舗装路を走ります。バスが道路の土を掘り起こします。道が乾燥していると土埃が舞い上がるので、コンタクトレンズをしている僕には、防塵メガネが要るくらいです。雨が降るともちろん埃はなくなりますが、今度はクルマが作った大きな深い穴ぼこに水が溜まります。僕たち歩行者は、もちろん水溜りを避けて歩くわけですが、そこは泥道です。日本へ帰る前に仕上がった7着の皮のブレザーに合わせて注文していた7足の靴の内、4足が最近仕上がってきました。新品の靴なのに外に出た瞬間にドロドロになります。
道路の水溜りは、何も未舗装路に限りません。ボゴタの道にはほとんど側溝がありません。降った雨は、中心部に比べて低くなっている道路の両側を川のように流れます。高い位置にある道路から流れ落ちた雨水は、低い位置にある道路の部分で池のようになって溜まります。クルマはこの部分で速度を落とすので交通渋滞が起こります。
一年に一回開かれるエスペラント語のコロンビア大会が、今年はボゴタでありました。11月12日から14日まで三日間に渡って開かれ、Caliという街から来たエスペランティスト4人が、我が家のできたばかりの小さな客室に泊まってくれました。1月13日の日曜日の朝、Mariaと4人のエスペランティストとともに大会会場まで行くため、泥道の向こうにある主要道路まで行ってバスを待っていました。この道は舗装されていますが、前夜の雨が歩道横の道路端に溜まっていました。歩道は舗装されていないので泥水です。すぐ横の信号が青になって先頭のトラックがこちらに向かって走り出してきました。僕は当然、トラックは水溜りを避けて走るか、そうでなくとも徐行して来るものと思い、その場に悠然と立っていました。しかしトラックはスピードを上げそのまま突進してきました。危険を察知したエスペランティスト4人は、すぐさま道路から遠ざかりました。Mariaは、僕と一緒に立っていたのですが、すかさず電信柱の陰に隠れました。僕だけが正面から全身に大量の泥水を浴びせられました。まだ何回も着ていない黒の皮のブレザー、初めて履いた黒の靴、これも新しい黒のズボンが泥水で洗われました。顔までビショビショです。トラックは新調の衣服を纏った男を見て故意にやったのかもしれません。唖然としたまましばらく口が利けなかった僕は、周りにいたのが理解のあるエスペランティストだから言ってやりました。「この国の人は、仕事をしない怠け者、また嘘つきだけでなく、野蛮だ!」と。でも実は、僕の方こそ頓馬なのだろう。
ボゴタ市は、そこに住む人たちの経済力によって地域を貧困層の1から富裕層の6まで6ランクに分類しています。僕の住んでいる地域は最貧困層に近い2です。ボゴタの役所について感心することが一つあります。電気、水道、ガス等の整備は貧困地域から優先して行うということなのです。今まで我が家ではプロパンガスを使っていましたが、8月にはこの地域にも都市ガスが供給されると聞いていました。果たして、日本から帰ってきたら、近所の家にはガスメーターが取り付けられていました。喜んで部屋に入ると、ガス管はコンロのすぐ近くまで引き込まれているにもかかわらず、まだプロパンガスのままでした。家主のHernanは、台所に換気扇がなかったのと、ガスメーターを二階の別家族と三階、四階の三つに分ける必要があるのに、それができなかったからだと言いました。連絡を取っているらしいのですが、まだガスは付きそうにありません。
今、台所には日本から持ち帰った暖簾、掛け軸や面などが掛けられている
この冷蔵庫を運び入れるのに苦労した
ボゴタに帰ってきた当初は、暖簾、掛け軸、浮世絵、面、着物等日本から買ってきた土産を部屋に取り付けるのに追われました。日本から持ち帰った便所の二つのウォッシュレットについては、うまく取り付けられるかどうか心配していたのですが、Hernanはその一つを僕の便所にあっと言う間に取り付けてくれました。しかしHernan自身の便所は難航しています。狭い便所なのでウォッシュレットの蓋が洗面台に当たって開かないのです。それで彼は今、洗面台を移設するため便所の壁を打ち破っています。この家でインターネットが接続できないのが問題でした。この家の電話会社が経営するプロバイダーに接続しようといろいろ試みました。同じ電話会社の速い回線を使っている家では僕のパソコンが全く問題なく接続されたので、僕は、問題はこの家の遅い回線速度にあると思って半ば諦めていました。ところがある日、Hernanが或るプロバイダーの1時間お試しコースのカードを貰ってきてくれました。どうせダメだろうと思いながらやってみたら、意外や意外、これが繋がったんです。Hernanは今、月一回の週末、大学で生命倫理を勉強しています。それで学割が効いて、接続料は時間制限なしで月約900円です。電話代は1時間25円程度。これでパソコンを提げてインターネット・カフェへ行く必要もなくなったし、夜でも接続できます。近所にパソコンを持っている家はなさそうです。電話会社はこの貧困地域をサービス地域から除外していたのかもしれません。日本ではビールしか入れてなく、ほとんど不要だった冷蔵庫ですが、ボゴタでは最も大切なものの一つになりました。ボゴタにも日本料理店が5~6軒あるようですが、高いのと遠いのでなかなか行けません。それで和食の料理本を読んで自炊しています。日本食材も簡単に入手できないので買い溜めして冷凍庫で保存しています。ずっとHernanの冷蔵庫を使ってきました。ところが最近、冷蔵庫内に水が漏れ出しました。Mariaは、冷蔵庫に腕を入れた途端に感電したと言います。まだ買ってから1年ちょっとしか経っていないコロンビアで生産された冷蔵庫です。それで新しい冷蔵庫を買うべくボゴタの中心部にあって家電製品を売る店が立ち並ぶ所へ行きました。僕は日本の製品しか信用していません。ところが店に置いている冷蔵庫や洗濯機は全て韓国製かアメリカ製です。10軒以上見て歩いても日本製はないと言います。やっとシャープ製1台を見つけましたが、扉に大きな傷がありました。それなのに2,500円しか値引きしないと言います。それで他に売っている店はないかと聞くと一軒だけあると言います。そこへ行くと大、中、小の各一台が置いてありました。一番大きなものを買いました。冷蔵庫は翌日家に運ばれてきました。さすがに大きな店は、コロンビアと言えども仕事が速いのです。ところが運送の二人の男は、階段が狭すぎて三階まで運び上げられないと言って帰ってしまいました。店は翌日、別の三人の男に同じ冷蔵庫を運ばせてきました。4階のテラスまで引き上げて、それから三階に運び下ろすと言うのです。運送の男は、さらに二人の男の助っ人が必要と言うので、近所の知り合いに頼みました。さらに一人の若者に援助を頼み、結局Mariaと僕を入れて8人がかりでテラスまでロープで引き上げました。それからが、さらに大変でした。包装を全部取って丸裸にしても、冷蔵庫の方がテラスへ出るドアーよりも大きいのです。冷蔵庫のドアーを開け、斜めにしたらやっとドアーを潜り抜けて4階の台所に入りました。三階に降りる階段の壁に懸けていた大きな世界地図とボゴタの地図の入った額まで外しました。古い冷蔵庫の横に一週間放置していた新しい冷蔵庫は、昨夜Hernanの弟が来たので古い冷蔵庫と交換し、古い冷蔵庫はHernanを加え三人で元の4階の台所に運び上げました。シャープの冷蔵庫は永久にこの家から運び出せないと思います。
ボゴタの雨季もボチボチ終わりに近づいています。部屋は日本の品物で飾られました。半ば諦めていたインターネットも家で接続できるようになりました。冷蔵庫も大きくなったので、もっと多くの日本食材を保存できます。最近、一軒のスーパーマーケットでだけ白菜とお好み焼きに使える柔らかいキャベツを売っていることを見つけたので買い溜めしようと思っています。
ブーツを入れると靴が全部で14足になりました。近いうちにあと三足出来上がってきます。4月に注文した下駄箱はまだ届けられていません。日本から帰ってすぐ、どうなっているのかと近所の家具屋に聞いたら「一週間後に仕上げる」と言いました。一週間後に行ったら、塗装がまだだと言いました。それから「明日」、「明日」と言ったまま一ヶ月以上経ちました。一週間ほど前、材料代が欲しいと言うので、代金は既に半分以上払っていると答えると、彼は材料代は諦め、すぐに作ると約束しました。先日その日に行ってみると、また塗装がまだだと言いました。それで下駄箱を見たいと言うと、「犬がいて噛み付くので見せられない」と答えます。もうちょっとうまい嘘を思い付かないものなのでしょうか。
8月に付くはずだったガス、4月に注文した下駄箱、どうも今年中には無理なような気がしてきました。
Hernanが、彼の勤務先、日本で言うと区役所のような所で、小・零細企業の人たち25人程度を対象に「環境セミナー」を始めました。月1回、来年の8月まで続きます。昨日は3回目で、法規制、社会安全システムの講義の後、Mariaが「耳と騒音」、僕が日本の環境汚染についてしゃべりました。僕の絶望的に下手なスペイン語では、どこまで通じたのか心配です。質問は全く分からないのでHernanが英語で通訳してくれました。
仕事をしていないのに、なぜか多忙です。偽学生ビザを一年延長するのに一ヶ月ほどかかりました。メールでさえなかなか書く時間がありません。日本から買ってきた本は、禅の本だけ一冊半をやっとバスの中で読んだ状態です。書道の練習、スペイン語の勉強は全くできていません。でも、あせらずボチボチやります。
師走が近づいてきましたが、みなさん、飲み過ぎに注意してください。