ドイツのハンブルグに移り住んで1年以上になる日本のエスペラント女性から突然電話があった。男は無理だが女性の名前だけは聞いたらすぐ記憶する特技があるので、二~三度会っただけだが誰だかわかった。なぜドイツかと聞くと「オランダのUEAで働いた後、近所なので・・・」。ドイツで何をしているかの問いに対しては、「不良しています」。実際は学生をしていて夏休みで一時帰国しているらしい。来年、ハンブルグ市と大阪市は姉妹都市になって10年の記念行事をするので、機関誌を交換している両都市のエスペラント会でも何かできないかとの話であった。さすがに単身日本を離れるだけあって、元気でおもしろい人だ。
異文化と接してきた人たちは、例外なく興味深い。私自身は海外で住んだことがないが、ほぼ毎年、約1ヶ月の旅を25年ほど続けている。昔は旅先で世界を何年も自由に歩き回るヒッピーに遭っては、彼らの生活様式、人生観、世界観に驚き、憧れたものだった。彼らの一部にはヨーロッパからインド、東南アジアを旅する内に無一文になって、次の旅費稼ぎのため日本に流れてくる者が多かった。日本でもそうしたヒッピー達と会う機会があったので、若い私の純日本的な脳細胞の半分は、彼らの自由と理想主義に汚染され、日本人に求められる盲目的従順さを失い、とうとう不良になってしまった。私は、G7やODAといった政府レベルの関係より、このような個人レベルの交流の方が強い影響力を持ち、国際理解、国際平和に貢献できるものと信じている。
鎖国が解かれて100年以上も経った今、大阪市の行政担当者も国際化を唱えて久しい。大きいことはいいことだ、と考えるのは権力の常なのか、大阪市は国際化のためオリンピックを招致しており、今年の春「オリンピック招致局」を設置した。2008年のオリンピック招致が成功するかどうかは神のみぞ知るところだが、来年のハンブルグ市との記念事業の方は実現するようだ。そこで、大阪エスペラント会としては、国際親善は民際からという立場から、ハンブルグエスペラント会と連絡、協力しながら何らかの参画ができないものかと考えている。
来年5月には、大阪での姉妹都市祭典に参加するため、ハンブルグエスペラント会の委員であるGerald Roemer氏が公式代表団の一員として来阪する。彼は都市計画家であり、環境保護運動家でもあるので、何かそうした問題のエスペラントによる講演を大阪市の公式行事として開催し、その通訳を大阪エスペラント会が担当するようなことが実現すれば、エスペラント運動にも貢献できるものと考えている。また、9月には大阪エスペラント会の若い会員がハンブルグの祭典に参加することになっているので、大阪とハンブルグの両地を中心とした相互交流を大いに深めるつもりである。大きなことはできないかもしれないが、大阪エスペラント会も草の根運動の一端を担えるよう、目下知恵を絞っている。
世界の平和は、目に見えない抽象的概念ではなく、「あの国には素晴らしい彼、彼女がいるから」といった個人個人の具体的関係に基づいて維持されるものだ。私は海外でも日本でも多くの素晴らしい外国人に出会い、彼らから実に多くのことを学んだ。たとえ戦場であっても、私はこのような友人達に銃を向けることはできない。主体的個人が集まって行動する草の根運動は、権力が行うものより時間がかかるかもしれないが、着実な実りをもたらすと思う。