外国人研究者との連携による東アジア仏教の歴史と思想の解明
外国人研究者との連携による東アジア仏教の歴史と思想の解明
研究の背景
本研究の背景になっているのは、中国の人民大学、韓国の金剛大学校との間で結ばれた交流協定である。この協定の柱は、
一. 毎年、三箇国の輪番の形で開催地を移しながら国際シンポジウム「日・韓・中 国際仏教学術大会」(開催国により名称が変わり、韓国で開催される場合は「韓・中・日 国際仏教学術大」、中国で開催される場合は「中・日・韓 国際仏教学術大会」、日本で開催される場合は「日・韓・中 国際仏教学術大会」と称することになっている)を共催し、その成果を三箇国で自国語で刊行する。
二.大学院生の相互派遣を行う。
という二点であり、本研究プロジェクトは、この第一の柱を実現するためのものである(第二の点は、東洋大学大学院文学研究科インド哲学仏教学専攻が中心となって、毎年、仏教を研究する大学院生を受け入れている)。
この国際シンポジウムはもともと二〇二一年度に当初の目標とされた第十回大会を開催することで終了する予定であったが、新型コロナ拡大の影響を受け、二年遅れて、本年度に持ち越された。今大会は、この十年以上に及ぶプロジェクトの最後を締め括るものとして、「東アジア仏教交流の未来」を統一テーマとして中国の福建省福州市の湧泉寺・福建省海峡仏教文化交流センターで開催された。二月刊行の『東アジア仏教学術論集』第十二号では、これまで通り、本シンポジウムで発表された論文、コメンテーターによるコメント、そのコメントへの回答を全て収録している。
研究目的
本プロジェクトの目的は、人民大学、金剛大学校との交流協定を積極的に活用して、三国で国際シンポジウムを開催し、また、その成果を各国において自国語で公表することによって、今後の三箇国における東アジア仏教研究の指針を与えることである。これによって三箇国のみならず、三箇国を研究対象とする世界中の仏教研究者に大きな影響を与えることができると確信している。
当該分野におけるこの研究計画の学術的な特色・独創的な点および予想される結果と意義「日・中・韓 国際仏教学術大会」の開催と『東アジア仏教学術論集』の刊行は、従来から前例のない独創的な試みとして評価されてきたが、東アジアの三箇国から選抜された研究者が、同じテーマのもとで研究発表を行い、また、その成果を各国で共有するという本研究プロジェクトの枠組みは、今後の国際的な学術交流のひな形となるはずである。
国内外の関連する研究の中での当該研究の位置付け 東アジア仏教に焦点を当てた学会に「東アジア仏教研究会」があるが、特定のテーマを設けて研究活動を推進することはない。この学会でも中国や韓国との学術交流は行われているが、特別講演的な扱いで、対等の立場での参加ではない。また、中国と日本で「中日仏学会議」が隔年開催の形で継続的に行われているが、毎回、中国で開催されているし、二箇国のみで韓国を含んでいない。また、その成果を複数の言語で公開することもない。その意味で本プロジェクトは類例のない独創的な企てであったと言える。
研究目的を達成するための研究組織
本研究のメンバーと役割分担は以下のとおりである。
研究代表者 伊吹 敦:研究員
「近代化の中での禅」
「禅宗の形成と中国社会との交渉」
研究分担者 原田 香織:研究員
「仏教と文学」
菊地 章太:研究員
「東アジアにおける仏教文化交流
佐藤 厚:客員研究員
「東アジア仏教の近代化に果たした井上円了と東洋大学の役割」
水谷 香奈:客員研究員
「仏教とジェンダー」
各研究代表者・研究分担者が担当する研究課題は、これまで各研究者が積極的に取り組んできた課題の延長線上に設定されており、着実な成果がもたらされている。
二〇二三年度の研究状況と成果
本年度は、三年ぶりに「第十回 中・日・韓 国際仏教学術大会」を開催することができた。中国の福建省福州市の鼓山湧泉寺・福建省海峡仏教文化交流センターで開催された今大会のプログラムを掲げると以下の通りである。
10月28日(土)
9:00〜9:30 開会式 司会:張文良(中国・人民大学教授)
1 歓迎の辞:張風雷(中国・人民大学仏教与宗教学理論研究所所長)
2 式辞:菅野博史(日本・創価大学教授)
3 式辞:伊吹敦(日本・東洋大学教授)
4 式辞:高承学(韓国・金剛大学校教授)
9:30〜10:00 記念撮影・休憩
10:00〜11:00 基調講演:王邦維(中国・北京大学教授)
11:00〜12:00 伊吹敦(日本・東洋大学教授)
「初期禅宗史解明のための国際協力の必要性」
司会:楊勇(中国・雲南大学教授)
コメンテーター:楊維中(中国・南京大学教授)
12:00〜14:00 昼食・休憩
14:00〜15:00 高承学(韓国・金剛大学校教授)
「東アジア華厳教学における「数十法」の解釈」
司会:張凱(中国・寧波大学副教授)
コメンテーター:邱高興(中国・計量大学教授)
15:00〜15:10 コーヒーブレイク
15:10〜16:10 楊維中(中国・南京大学教授)
「玄奘と新・旧訳論争新論│あわせて玄奘とその弟子の「宗派性」を論ず│」
司会:徐文明(中国・北京師範大学教授)
コメンテーター:紀華伝(中国・社会科学院教授)
16:10〜16:20 コーヒーブレイク
16:20〜17:20 菅野博史(日本・創価大学教授)
「『維摩経玄疏』巻第二における三観と天台思想」
司会:李海波(中国・西北大学教授)
コメンテーター:張文良(中国・人民大学教授)
18:00 晩餐
10月29日(日)
8:50〜9:50 佐藤厚(日本・東洋大学東洋学研究所客員研究員)
「韓国における国際仏教学学術会議│金知見博士主催の大会と3か国学術会議の比較│」
司会:王公偉(中国・魯東大学教授)
コメンテーター:張雪松(中国・人民大学教授)
9:50〜10:00 コーヒーブレイク
10:00〜11:00 張雪松(中国・人民大学教授)
「中韓初期弥勒信仰の形態的相似性│天台智顗の僧団における弥勒信仰の実践を端緒として│」
司会:張雲江(中国・華僑大学教授)
コメンテーター:高承学(韓国・金剛大学校教授)
11:00〜11:10 コーヒーブレイク
11:10〜12:10 張風雷(中国・人民大学教授)
「五代宋初における天台教籍の中国への還流について」
司会:史経鵬(中国・中央民族大学教授)
コメンテーター:菅野博史(日本・創価大学教授)
12:10〜14:00 昼食・休憩
14:00〜15:00 李承南(光道)(韓国・金剛大学校教授)
「智顗の『四教義』と諦観の『天台四教儀』の比較研究」
司会:李宜静(中国・華南師範大学副教授)
コメンテーター: 韓剣英(中国・北京信息科技大学副教授)
15:00〜15:10 コーヒーブレイク
15:10〜16:10 張文良(中国・人民大学教授)
「中国涅槃宗における二諦説」
司会:唐嘉(中国・中国芸術研究院研究員)
コメンテーター:董群(中国・東南大学教授)
16:10〜16:30 コーヒーブレイク
16:30〜17:00 閉会式 司会:張文良(中国・人民大学教授)
1 式辞:菅野博史(日本・創価大学教授)
2 式辞:伊吹敦(日本・東洋大学教授)
3 式辞:高承学(韓国・金剛大学校教授)
4 閉会の辞: 張風雷(中国・人民大学仏教与宗教学理論研究所所長)
17:30 晩餐
先にも記したように、今大会の成果は、二〇二四年二月刊行の『東アジア仏教学術論集』第十二号の「特集」として刊行された。本雑誌は全国の研究者や研究機関に送付され、また、その全内容が東洋大学学術情報リポジトリを通じて世界に発信されている。なお、本雑誌は、残念ながら、今号で終刊となるため、これまでの全十回大会を振り返るために、「全10回の学術大会におけるテーマ・発表論文一覧」、ならびに「全10回の学術大会における発表者・コメンテーター一覧」を編集して附録とした。是非一読されたい