静電スプレーとは液体表面の電界が大きくなると,表面に働く静電気力によって流体力学的に不安定になり,帯電した液滴が多数生ずる現象である。静電スプレーの最も古い研究は水のジェットに帯電棒を接近させるとジェットが細かく分裂する現象の発見である。その後は毛細管からジェットを噴出させ、毛細管自身に高電圧を印加することで微粒化する方法へ移行していった。
図に示すように静電スプレーは液体の流量により噴霧状況が異なり,生成する液滴径も大きく異なる。流量が少ない場合は,滴下する液体に電圧を印加していくと,次第に帯電した液滴が形成されて,対向電極に向かって飛ぶようになる。さらに電圧を印加してゆくと液体が円錐状(Cone Jet)になり,円錐の先端から帯電した微細な液滴が釣鐘状に噴霧される。このコーンジェットが形成されている時には5nm~数μmまでの非常に微細な液滴が生成可能となる。さらに電圧を上げると複数のコーンジェットがキャピラリー先端部に形成される(Multiple-Jet)。これは、噴霧された液滴が同一符号の電荷をもつため,互いに反発しあうために分かれると考えられる。
静電スプレーの液滴生成機構は不明な点が多いが,概ね以下のように考えられている。強い電場のために液中の同一符号をもつイオンが液体表面近傍に集まる。液中のイオンは電場方向の力を受け,液面が対向電極に引っ張られ,この結果としてコーンジェットが形成される。その先端から同一符号を持つ液滴が電気力やクーロン反発により液体先端から引きちぎられて噴霧される。
一方,流量の大きい場合は,電圧を印加してもコーンジェットは形成されることはなく,ジェットが単に広がって噴霧が行われる(Ramified Jet)。この場合は液滴径が大きく数μmから数百μmの範囲になる場合が多い。流量の少ない場合はナノ粒子などの材料合成,質量分析計のフラグメンテーションがないイオン源などとして用いられ,流量の多い場合は,静電塗装,静電農薬散布,湿式の電気集塵などに応用されている。
参考文献
静電気学会(編)、静電気ハンドブック、オーム社、1981.
原野 安土、宝田 恭之、定方 正毅、静電微粒化法を用いた新しい環境浄化技術の開発、エアロゾル研究、17(1)、 23–28、2002.
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(群馬大学・原野 安土) 2016年5月2日 ★