ブレーキ摩耗粒子
Brake Wear Particles
Brake Wear Particles
ブレーキ摩耗粒子は,摩擦材と相手材が摩擦や摩耗することにより生成した主に粒径10 µm以下の粒子が,大気へ放出される粒子状物質のことをいう.大気へ放出されず,車のホイールに沈着するブレーキ摩耗粒子(ホイールダスト)や,路面に沈着するブレーキ摩耗粒子もある.
摩擦材と相手材の材質,ブレーキをかける時間,初速度,圧力,トルク,ブレーキの温度などにより,ブレーキ摩耗粒子の発生量が変化する [1].
写真:室内ブレーキ試験機で発生した自動車由来のブレーキ粉塵粒子を直径47 mmのテフロンフィルターで採取した様子
写真:室内ブレーキ試験機で発生した自動車由来のブレーキ粉塵粒子を電子顕微鏡で観察した一例
[ブレーキの種類]
自動車用のブレーキは,その構造からディスクブレーキとドラムブレーキに大別される [1].摩擦材は,ディスクブレーキの場合はパッド,ドラムブレーキの場合はライニングである.相手材は,ブレーキの場合はディスク(ローター),ドラムブレーキの場合はドラムである.
[化学組成]
ブレーキ摩耗粒子の化学成分は,車の性能などに応じて配合する材料や量を調整するため,主に摩擦材によって大きく異なる[1].摩擦材は,数十種類の原材料を配合して,加熱加圧成形して作成される。配合する原材料は、フェノール樹脂,アラミド繊維,金属繊維,無機潤滑剤,金属粉などがあり,摩擦性能に応じて原材料の量や成分などを調整して配合する[1].相手材は,主に鋳鉄が使われる [1].
[粒径分布]
ブレーキ摩耗粒子の形状は様々で,フレーク状や球形の粒子が観測される.粒径数 µmの粗大粒子に粒径数十nmの粒子が凝集している粒子も観られる場合がある[1].粒径分布は,質量基準でみると粒径1 – 2 µmをモード径とした分布を示す[2] [3].個数基準でみると,粒径0.1 µm以下,1 – 2 µmにそれぞれ分布の山が2つ以上現れる[2].粒径0.1 µm以下にみられる粒子は,摩擦材に含まれる材料が蒸発し,凝縮して生成した粒子が観測される.ブレーキが摩擦するときの温度によっては,粒径 1.3 – 4.4 nmの粒子も検出されることがある[4].
[参考文献]
[1] 萩野 浩之:自動車の排出ガス・粉じんと大気環境―第7講 自動車から排出されるブレーキ摩耗粉じん―、大気環境学会誌, 55, A18–A35, 2020.
[2] 環境省:令和2年度ブレーキ摩耗由来のPM測定法等の検討に向けた調査業務,国立国会図書館書誌 ID 031437266, 2021.
[3] Hagino, H., Oyama, M., Sasaki, S.: Laboratory testing of airborne brake wear particle emissions using a dynamometer system under urban city driving cycles, Atmospheric Environment, 131, 269–278, 2016.
[4] Nosko, O., Vanhanen, J., Olofsson, U.: Emission of 1.3–10 nm airborne particles from brake materials, Aerosol Science and Technology, 51, 91–96, 2017.
一般財団法人日本自動車研究所・萩野 浩之 (2022年4月1日) ★