大気汚染に係る環境基準(環境省)は環境基本法第16条の規定に基づき、人の健康を保護するうえで維持することが望ましい基準として、環境省告示により二酸化硫黄(SO2 )、浮遊粒子状物質(SPM)、一酸化炭素(CO)、二酸化窒素(NO2 )、光化学オキシダント(Ox)、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、ダイオキシン類および微小粒子状物質(PM2.5 )の11物質に定められている。
このうち、粒子状物質であるエアロゾルに直接関与するのがSPMとPM2.5 であり、粒子状物質も含む光化学スモッグの指標として間接的に関与するのが光化学オキシダント(Ox)である。後者について詳しくは、光化学スモッグを参照のこと。
SPMは粒径10 μm以下の粒子を対象としており、日本のみに用いられている基準である。日本では長年、このSPMによって粒子状物質による大気汚染の状況把握やその対策が行われてきたが、1993年にDockeryらが報告した疫学調査であるハーバード6都市研究とその後の解析により、粒径がより小さい粒子は肺の深部まで到達し、より深刻な健康影響を与えることが明らかとなった。この研究をもとに米国では、1997年にPM2.5 に関する環境基準が初めて制定された。その後、2006年に世界保健機関(WHO)がガイドラインを提示し、2008年には欧州連合(EU)で環境基準が制定された。このような流れから日本でもPM2.5 の実態調査や疫学的・毒性学的研究が進められ、2009年に環境基準が制定された。さらに韓国(2015年から適用)や中国(2016年から適用)でも、PM2.5 の環境基準整備が進められている。
一方で、米国は2013年3月に環境基準をより厳しく改定(年平均値15 μg/m3 を12 μg/m3 へ改定)しており、WHOもPM2.5 の健康影響に関するしきい値は特定できないとして、可能な限りの最低濃度(段階的な改善を促進する暫定目標)を示すとの考え方から、2021年9月にガイドラインを改定(年平均値を10 μg/m3 から5 μg/m3 へ、24時間平均値を25 μg/m3 から15 μg/m3 へ改定(評価は年平均値を優先))した。
また、日本においては、越境汚染などの一時的なPM2.5 濃度の上昇に対応する取り組みとして、「注意喚起のための暫定的な指針(70 μg/m3)」が制定されており、各都道府県において運用がなされている。
・微小粒子状物質(PM2.5 )に関する情報(環境省)
参考文献
Dockery, D.W., Pope, C.A., 3rd, Xu, X., Spengler, J.D., Ware, J.H., Fay, M.E., Ferris, B.G., Jr. and Speizer, F.E., An association between air pollution and mortality in six U.S. cities, New England Journal of Medicine, 329, 1753-1759, 1993.
日本エアロゾル学会 畠山史郎・三浦和彦(編著)、『みんなが知りたいPM2.5 の疑問25』、16-21、成山堂書店、2014.
畠山史郎・野口恒(著)、『もっと知りたいPM2.5 の科学』、19-25、日刊工業新聞社、2016.
(埼玉大学・関口和彦)2016年4月28日、2022年4月30日改訂 ★