大気中でガス分子から粒子が生成する現象を新粒子生成という.新粒子生成は,自然起源または人為起源の揮発性の低い化合物による核生成(ナノメートルサイズの分子クラスターの生成)と,その後の成長過程からなる.新粒子生成は空気の清浄な極域から,森林地帯,海洋の沿岸域,汚染の多い都市域まで,世界各地の幅広い環境において起こっていることが観測されている.
新粒子生成は一般に昼間に起こることが多いことから,光化学反応が重要な役割を果たしている.特にOHによるSO2の酸化によって生成する硫酸が新粒子生成にとって最も重要な分子である.核生成によって形成される分子クラスターの化学組成を直接分析する方法がないため,実際の核生成メカニズムについては明らかになってはいないが,自由対流圏では硫酸-水蒸気の2成分均一核生成,大気境界層では硫酸-水蒸気に第3の成分を加えた3成分均一核生成が主要な核生成メカニズムと考えられている.第3の成分としてはアンモニアが有力であるが,近年アミン類が硫酸-水からなるクラスターをより強く安定化することが理論計算や実験から明らかとなり,大気中のアミンが核生成に大きく寄与しているのではないかと考えられている.また,大気中で酸化されて生成する低揮発性の有機化合物が関与している可能性もある.大気中の気相イオン(大気イオン)を核としたイオン誘発核生成は中性気体分子を核とする場合よりもより安定なクラスターを形成するが,大気境界層における大気イオンの濃度は一般に非常に低いことから,新粒子生成に対するイオン誘発核生成の寄与は限定的であると考えられている.
核生成によって生成した分子クラスターは低揮発性の化合物(硫酸や有機物など)の凝縮によってより大きなサイズへと成長していく一方で,既存の粒子への凝集によって失われてしまう.したがって新粒子生成が観測されるには既存粒子濃度が低いことが条件となる.
参考文献
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(高知工業高等専門学校・長門研吉) 2016年5月3日、2022年5月25日リンク更新 ★