結晶質シリカ

crystalline silica

結晶質シリカとは、SiO2の化学式であらわされる結晶構造を持つ二酸化ケイ素であり、自然の鉱物に含まれる物質である。大気圧下で存在する結晶質シリカの種類は、石英、トリジマイト、クリストバライトであり、それぞれ、六方晶系六角錘形、六方晶系六角板状、立方晶系八面体の構造を持つ。


シリカには、結晶構造をもつもの(結晶質)と、もたないもの(非晶質)があるが、エアロゾルの健康影響において重要であるのは、結晶質のシリカである。シリカゲルなどの非晶質の物質は有害性が低いと考えられているが、結晶構造をもつもの(結晶質シリカ)を含む粉じんを吸入することにより、肺がんやじん肺の一種であるけい肺を発症させる。


結晶質シリカの生体影響については、解説1)を参照されたい。日本産業衛生学会では、結晶質シリカを発がん物質分類第1群“ヒトに対して発がん性があると判断できる物質”としており2)、IARC国際がん研究機関の発がん分類においても、グループ「1」の“Carcinogenic to humans (発がん性が認められる物質)”に分類されている3)。このため日本では、粉じん作業者を発がん等の労働災害から守るために、作業環境中粒子の結晶質シリカの割合とその濃度を測定、管理することが労働安全衛生法や粉じん障害防止規則で定められている。その際の測定では、ヒトが吸入し、肺胞まで到達するサイズの粉じん(吸入性粉じん)濃度を測定することが必要であり、重力沈降慣性衝突を利用し、ISO 7708で定義される空気力学的直径4ミクロン50%カットの環境中の吸入性粉じんの重量濃度を測定することが作業環境測定法で定められている。吸入性粉じんは肺胞の奥まで到達する粒径の粉じんで、繊毛などのない肺胞ではその排泄が遅く粒子が肺に長く滞留するため、有害性の高い粒子では特に長く影響をおよぼし続けるからである。


肺への影響においては、まず、粒子の空気力学的直径等により沈着する肺の部位が異なることを認識しておく必要があるが、環境中粉じんの肺への影響は、(粒子の有害性)×(粉じんの沈着量)でほぼ決まるため、有害性が高ければ、管理すべき基準濃度(管理濃度)は低くなっている。作業環境中の土石、岩石、鉱物の管理濃度は、この結晶質シリカ(遊離けい酸)の含有率に依存した管理濃度E、


E = 3 /(1.19Q+1) mg/m3(式中のQは遊離けい酸含有率%)


が定められており4)、遊離けい酸含有率0%の場合は3 mg/m3であるが、100%の場合は、0.025 mg/m3と非常に低い値となる。日本産業衛生学会が勧告する結晶質シリカの許容濃度は、結晶質シリカの有害性を考慮し、0.03 mg/m3と決定されている5)


発がん性分類や管理濃度や許容濃度は見直されることもあるので、毎年最新版を確認されたい。

文献

1) 森本泰夫、特集「シリカ(結晶質シリカ)の生体影響」 特集にあたって、エアロゾル研究、268,16(4), (2001)

   特集号 目次

2) 日本産業衛生学会、許容濃度等に関する委員会、結晶質シリカの発がん物質分類第1群の提案理由、日本産業衛生学会誌、43、2001.

3) IARC monograph 68(1997), 100C, 2012. 

https://monographs.iarc.who.int/wp-content/uploads/2018/06/mono68.pdf

http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol100C/mono100C-14.pdf

4)管理濃度等検討会報告書;厚生労働省、2009. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1027-17a.pdf

5)許容濃度の暫定値(2006年度)の提案理由:日本産業衛生雑誌、124、2006.

(産業医科大学 産業生態科学研究所 大藪 貴子) 2022年3月20日   ★