大気エアロゾルに入射した放射の一部は吸収され、ある一個のエアロゾルの光吸収断面積(m2)は、Mie散乱によれば粒子の複素屈折率虚数部と粒径により規定される。粒径分布を持つ多分散エアロゾルである大気エアロゾル全体としては、複素屈折率虚数部と粒径分布の両方に依存して吸収断面積が決まることになる。この大気エアロゾル全体、あるいはある特定の種類のエアロゾルの吸収断面積を、その質量(g)で除したものを質量吸収断面積(m2 g-1)と呼ぶ。これは、主として光吸収性エアロゾル(あるいはブラックカーボン・ブラウンカーボンなど)の光吸収特性を1つの数値で代表させるもので、バルクな考え方である。
質量吸収断面積と質量濃度(g m-3)の積が光吸収係数(m-1)となり、光散乱係数と光吸収係数の和が光消散係数である。
質量吸収断面積を数値としてそのまま使用する場面は多くはないが、エアロゾルを繊維状あるいは多孔フィルターに捕集して透過光を測定するintegrating plate法、あるいはそのバリエーションであるMagee社のAethalometerⓇやThemo社のMAAPⓇの内部計算で、光吸収測定結果をエアロゾルの質量濃度に変換する際に非明示的に使用されている。ただし、すす(ブラックカーボン ・ 元素状炭素粒子)の質量吸収断面積は大きな幅 (2~25 m2g-1 : この論文1)中ではspecific attenuation cross-sectionと呼んでいる) をもって報告されており、ある一つの値を使用して質量濃度に焼き直すことは、同様に大きな幅で計算結果に影響が生じることであり、それを認識したうえで使用する必要がある。この幅が生じる要因の一つとして、光吸収断面積あるいは光吸収係数の測定の際に、光散乱性の成分が光吸収性粒子を被覆している場合のレンズ効果が指摘できる。それ以外にも、短波長側に比較的大きな光吸収性を持つ酸化鉄のような組成を多く含む鉱物粒子や、ブラウンカーボンなどとの共存も考えられる。
参考文献
1) Liousse, C., Cachier, H., Jennings, S. G., Optical and thermal measurement of black carbon aerosol content in different environments: variation of the specific attenuation cross-section, sigma (σ), Atmos. Environ., 27A, 1203-1211, 1993.
(産業技術総合研究所 兼保直樹) 2022年4月4日 ★