大気エアロゾルの化学成分は、無機成分(硫酸塩、硝酸塩、塩化物等)、炭素成分(有機炭素、元素状炭素、炭酸塩炭素等)、金属成分等に分類される。粒子状物質は質量濃度で2μm付近を谷としたふた山型の粒径分布を持つことが多く、微小粒子領域と粗大粒子領域では化学組成が異なる場合が多い。
無機成分の硫酸アンモニウムは微小粒子領域に多く含まれる。硝酸アンモニウムは微小粒子領域に多い粒子であるが、温度が上がると硝酸とアンモニアに変化する。また、大気中に塩化ナトリウムが存在する場合には塩化ナトリウムと硝酸が反応して、硝酸ナトリウム粒子を生成する。炭素成分には、化石燃料等の燃焼によって発生する元素状炭素、未燃の燃料や不完全燃焼物質から構成される一次生成有機炭素、揮発性有機化合物から光化学反応等に伴って生成される二次生成有機炭素、土壌等に由来する炭酸塩炭素が存在する。燃焼、二次生成由来の炭素は微小粒子領域に多く含まれるが、土壌や花粉由来の炭素成分は粗大粒子領域に多く含まれる。海塩粒子や土壌粒子は粗大粒子領域に多く含まれる。極地や大陸から離れた洋上など、特殊な場合を除けば、乾燥状態でのPM2.5 質量のうち、おおまかには無機イオン成分が1/3~1/2程度、炭素を含む成分が1/3~1/4程度、土壌粒子など非水溶性の無機物質が1/3~1/4程度を占めるといわれている。
一例として、環境省が全国で実施したPM2.5の成分測定結果(令和2年度)を下図(環境省, 2022)に示す。ここで一般環境とは、住宅地のように近隣に大規模な汚染源のない地域での観測結果を示す。これに対して、交通量の多い道路の沿道での観測結果では、質量濃度は一般環境での結果と変わらないものの、元素状炭素の割合がやや高い。一方、人口密集地から離れたバックグラウンド大気での観測結果では、質量濃度が他の2地点に比べて低く、硫酸イオンの割合がやや高いものの、自動車排ガス中のNOxに関連する硝酸イオンやディーゼル排気微粒子に関連する元素状炭素の割合が低くなっていた。
なお、サハラダスト、中国のレス、フライアッシュ、火山性エアロゾル、森林火災でのエアロゾル分析例、各種燃料の燃焼由来粒子の分析例、遠隔地(南極・北極、アラスカ、チャカルタヤ、アマゾン)、世界各地の田舎・都市域でのエアロゾル分析例については、Warneck and Williams (2012)を参照してほしい。
参考文献
環境省、令和2年度 大気汚染状況について、 別添1 令和2年度大気汚染物質(有害大気汚染物質等を除く)に係る常時監視 測定結果、53p, 2022.
Warneck, Peter, and Jonathan Williams. The Atmospheric Chemist’s Companion: Numerical Data for Use in the Atmospheric Sciences. p139-160, Springer Science & Business Media, 2012.
(名古屋市環境科学調査センター・山神真紀子) 2022年4月12日 ★