ある量が飽和量を超えた状態を過飽和といい,飽和量を超えた部分の飽和量に対する割合を過飽和度という。溶液がその温度における溶解度に相当する量を超える溶質を含むとき(溶液の過飽和)や,蒸気がその温度における飽和蒸気圧を超える圧力をもつ場合(蒸気の過飽和)などがある。
気象学では一般的に水蒸気圧が平らな水面に対する平衡水蒸気圧より高い状態を過飽和と呼ぶが,0℃以下では,水の面と氷の面に対する飽和水蒸気圧を定義することができ,それぞれの飽和水蒸気よりも高い状態を水過飽和,氷過飽和と区別して呼ぶ。同じ温度では,水面に対する飽和水蒸気圧の方が氷の面に対する飽和水蒸気圧より高い。例えば,-10℃では,水に対する飽和水蒸気圧は,氷に対しては約10%の過飽和となる。過冷却の微水滴と氷晶が共存する場合,氷晶は急速に成長し,微水滴が蒸発するのはこのためである。凝結核を含まない清浄な空気中では,数100%の過飽和になるまで,水滴が生成されない。しかし,自然大気中には凝結核が豊富に存在するため,飽和水蒸気圧を超えると直ちに凝結核の上に水滴が生成され,通常1~2%を超える過飽和は殆ど存在しない。
参考図書
Pruppacher,H.R. & J.D. Klett, Microphysics of Clouds and Precipitation , Kluwer Academic, 954p, 1997
Rogers,R.R. & M.K. Yau, A Short Course in Cloud Physics, Butterworth-Heinemann, 304p, 1989
Lamb, D., & J. Verlinde, Physics and Chemistry of Clouds, Cambridge University Press, 584p, 2011
村上正隆,第I 編 第5 章「雲と降水の物理学」, 気象ハンドブック(第3 版), 朝倉書店, 2005
(気象研究所・村上正隆) 2016年7月5日 ★