ミー散乱(van de Hulst, 1981; Bohren, 1983)では、粒子サイズ、複素屈折率、入射光の波長により散乱角に対する強度分布パターンが変化する(図1に、例として半径0.5 µmの球形粒子を仮定して求めた複素屈折率に対する散乱パターンの変化を示す)。一般的に、粒子サイズが大きくなるほど前方散乱成分が卓越し、エアロゾルの光吸収は主に後方散乱成分に顕著に影響が現れる。また、回転楕円体が仮定できる非球形粒子では、散乱角90度以上の後方散乱側で、球形粒子との散乱パターンの違いが明瞭になる(Mishchenko, 1997)。このような散乱角に対する強度分布を示す関数を位相関数P(θ)と呼び、次式で示す全立体角で規格化した形で表すことが多い。
図1 球形粒子の半径r = 0.5 μm、入射光の波長 λ = 550 nmとしたときの複素屈折率に対する光散乱パターンの変化(右:虚数部を0に固定して実数部を変化、左:実数部を1.50に固定して虚数部を変化)
大気の放射伝達の観点では、散乱された太陽光が地表面方向(前方)に向かうのか、大気圏外(後方)に向かうのかが重要となる。この複雑な散乱パターンをより簡潔に表現するパラメータとして、非対称因子(非等方因子ともよばれる)g
がある。非対称因子は、-1 ~ 1の値をとり、値が大きいほど前方に散乱される割合が大きくなる。空気分子のレイリー散乱は、前方・後方の散乱パターンが対称となる等方散乱なのでgは0である。一般的なエアロゾルの非対称因の値は、0.6~0.8程度であり、粗大粒子が多いほど値は大きい。単一散乱アルベド、非対称性因子(または位相関数)、光学的厚さは、大気の放射伝達を考慮する際の主要な3要素として知られている(工藤, 2014)。また、非対称因子から位相関数を推定する関数として、Henyey-Greenstein の近似式(Henyey and Greenstein, 1941)がある。
参考文献
Bohren, C. F. and D. R. Huffman: Absorption and scattering of light by small particles, pp. 83-154, Wiley-Inter Science, 1983.
Henyey, L.G. and J. L. Greenstein: Diffuse radiation in the galaxy,” Astrophys. J. 93,70-83, 1941.
Mishchenko, M.I., L. D. Travis, R. A. Kahn, and R. A. West: Modeling phase function for dustlike tropospheric aerosols using a shape mixture of randomly oriented polydisperse spheroids, J. Geophy. Res.,102, 16.831-16,847,1997.
Van de Hulst, H.C.: Light scattering by small particles, pp. 114-171, Dover, New York, 1981.
工藤玲: エアロゾルの光学的特性と直接効果, 低温科学, 72, 113-125, 2014.
(京都大学・矢吹正教) 2016年4月30日 ★