南極や北極の成層圏に冬季に、およそ氷点下83℃以下に寒冷化した成層圏に出現する雲。英語では、Polar Stratospheric Cloudsと記され、PSCやPSCsと略記される。 主に、氷、水/硝酸/硫酸の3成分過冷却溶液、硝酸三水和物を成分とする1 µm前後のエアロゾルからなる雲。冬季に形成されるPSCsの表面における不均一反応が、春季のオゾンホールなどの極域オゾンの大規模な濃度低下をもたらしている。
観測: 目視、人工衛星による太陽放射の散乱、レーザーレーダーによる後方散乱などのリモートセンシング、気球、航空機搭載の光散乱粒子計数装置によるin-situ観測などにより観測されている。
出現時期および高度: 南極域では、6月から10月に高度15~26 km、北極域では12月から2月に高度18 ~22 km付近で観測されることが多い。
組成: 氷、硝酸三水和物、硫酸/硝酸/水の過冷却溶液が主なものと考えられているが、硝酸二水和物、アモルファス氷の粒子などの存在も提唱されている。
形成要因: 成層圏の水蒸気混合比は、3~5 ppmv程度で非常に乾燥している。さらに、成層圏オゾンが太陽放射中の紫外線を吸収し熱に転嫁するため、通常の成層圏は上空ほど温度が高く雲は形成されにくい。しかし、極域の冬季には、長期にわたって太陽放射が消失するため、放射冷却により成層圏が低温化し、氷点下80℃以下になる。このような温度では、硝酸三水和物や氷、硫酸/硝酸/水から成る三成分過冷却液滴の形成、成長が可能な条件になる。通常は、氷飽和点近くまで温度が低下すると、成層圏に既存粒子として存在している硫酸エアロゾルに硝酸が凝縮して、三成分過冷却液滴となり、さらに低温化すると氷や硝酸三水和物が析出して、氷の極成層圏雲や硝酸三水和物の極成層圏雲が形成されると考えられている。
地球化学的影響: 南極におけるオゾンホール形成をはじめとする極成層圏における大規模なオゾン濃度低下は、主に、PSCs表面においてクロロフルオロカーボン類を起源とする触媒的オゾン分解物質のリザーバー物質が、オゾン分解に活性な物質に変換されることで生じていると考えられている。同時に、PSCs粒子の重力沈降により、極域の成層圏の水蒸気や窒素酸化物を成層圏底部や対流圏に輸送するという地球化学的物質循環にも寄与している。
(福岡大学・林 政彦)2016年7月4日 ★