喫煙から発生する煙と健康障害
喫煙によりタバコ葉と巻紙が不完全燃焼して発生する粒子(ミスト状のタール)とガスの混合物が発生する.喫煙者本人が肺に吸引する煙が主流煙,タバコの先端から立ち上る煙が副流煙,喫煙者が口から吐き出す煙が呼出煙である。電子顕微鏡写真から計測した副流煙のカウントメディアン径は0.43 μm、主流煙が0.52 μmであった(図1, 2)。肺に吸入された煙は湿度による膨張と衝突による融合のため滞留する時間が長いほど大きくなり、吸入して2秒後に吐出された煙の粒子径は0.57 μm、4秒後で0.62 μm、8秒後で1.07 μmであった1)。タバコから発生する粒子のサイズは越境汚染として社会問題となった微小粒子状物質(PM2.5)に相当する。
図1. 副流煙の走査型電子顕微鏡写真
図2. 副流煙、主流煙、呼出煙の粒子径
喫煙によって発生する主流煙の粒子成分が約 4,300 種類,ガス成分が約 1,000 種類の合計約 5,300 種類と報告されている2) 。これらの化学物質には, 発がん性があると報告される物質も約 70 種類存在している。なお、喫煙者の口の中の主流煙の濃度は10,000 µg/m3 に達する。喫煙による超過死亡は年間に128,900人に達し、その内訳は悪性新生物(がん)が77,400人、循環器疾患が33,400人、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が18,100人であった(図3)。
図3. リスク要因別の日本人の年間超過死亡者数3)
受動喫煙
受動喫煙とは、副流煙と呼出煙の混合物を自らの意志と関係なく吸入させられることである。低い温度でくすぶるタバコから発生する副流煙には、主流煙よりも高い濃度の有害物質が含まれているため、非喫煙者が受動喫煙に長期間曝露されることで疾患リスクが高くなる。2016年の国立がん研究センターの報告では、受動喫煙による非喫煙者の超過死亡は年間約15,000人で、内訳は肺がん2,484人、虚血性心疾患4,459人、脳卒中8,414人であり、その被害は女性の方が大きいことが報告された(図4)4)。
図4. 受動喫煙による年間死亡数の推計値
健康増進法(2003年)で全国の郵便局や銀行の窓口、関東の私鉄が全面禁煙となった。2007年、世界保健機関(WHO)は「喫煙室や空気清浄機による工学的な対策は不適切である」と結論し、「屋内を100%完全禁煙」にすることを締約国に求めている5) 。2020年までに67ヵ国で屋内(サービス産業を含む)を全面禁煙とする法律が施行されている6) 。わが国でも「望まない受動喫煙」をなくすことを定めた改正健康増進法が2020年に施行され、第一種施設(学校、病院、行政機関)は敷地内禁煙、第二種施設(企業、飲食店等、国会・議会)は原則屋内禁煙とされ、レストランや居酒屋などの禁煙化が進み始めた7)。今後、WHOが求めているように屋内を100%完全禁煙とする検討が求められている。
引用文献
1) 東 敏昭ら、タバコ煙粒子の捕集、観察と気道内での動態. 日本公衆衛生雑誌. 32(1), 17-23, 1985.
2) 厚生労働省、喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書、2016.
4) 国立がん研究センター 「厚生労働省主催、2016年世界禁煙デー記念イベント発表資料」
5) 大和 浩ら、日衛誌 (Jpn. J. Hyg.),70,3–14, 2015.
6) https://www.who.int/teams/health-promotion/tobacco-control/global-tobacco-report-2021
7) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html
(産業医科大学 大和 浩) 2016年6月10日作成、2022年6月2日修正 ★