浮遊微生物の捕集方法には、受動的な方法として落下法、能動的な方法として衝突法、液体捕集法(インピンジャー法)、ろ過捕集法がある。また、捕集した微生物の検出方法としては培養法、蛍光染色法、ATP法、PCR法などがある。
落下法は、寒天培地を机上や床面に置き、落下してくる微生物を捕集する方法であり、捕集した寒天培地を培養して出現した微生物コロニーを数えるため、検出方法は培養法である。この方法は浮遊微生物による表面汚染状況を把握する際に用いられることが多いが、捕集される微生物粒子の沈降速度は粒径に依存し、また浮遊粒子は気流の影響を受けやすいことから気中濃度の測定には向いていない。
能動的な捕集方法のうち、市販されているサンプラーの多くは寒天培地に空気中の微生物(細菌や真菌)を衝突させるものであり、これも検出方法は培養法である。捕集原理は慣性衝突であるが、市販のサンプラーには1段多孔型、多段多孔型、スリット型、遠心型がある。1段多孔型や遠心型は、取り扱いが比較的簡便であるが、遠心型は流量のキャリブレーションが確かではなく、捕集率が劣ることが知られている1、2)。スリット型は、捕集用寒天培地が回転するため、浮遊微生物濃度の経時変化を測定することができるのが特徴である。
液体捕集法はインピンジャーを使用し、微生物用が市販されている。生理食塩水や液体培地などの液体に捕集した後は寒天培地に接種する、あるいは蛍光染色を行うなどして微生物を検出する。
ろ過捕集法ではフィルターに捕集するが、捕集にはメンブランフィルターやゼラチンフィルターを使用する。メンブランフィルターに捕集した場合は、捕集された微生物をリン酸バッファーなどの液体中に回収する。その後、寒天培地に接種して培養する、あるいは蛍光染色をおこなって菌数を求めるなどする。
微生物の検出方法のうち、培養法はコロニー検出までに数日以上の時間がかかることから、迅速検出法として捕集した微生物を蛍光染色剤で染色して顕微鏡下で計数する方法や、微生物の持つATPを測定する方法などが汎用されている3)。
室内環境測定に関するISO 16000(Indoor Air)シリーズ4)~7)では、浮遊真菌の濃度測定についてすでにいくつかの規格が定められている。ISO 16000-16はろ過捕集法についての規格であり、捕集に使用するフィルターとしてゼラチンフィルターとポリカーボネートフィルターのデータが比較して記載されている。ISO16000-18は衝突法についての規格であり、衝突法に使用する機器としてスリットサンプラーとシーブサンプラー(多孔板式)が挙げられている。これらの規格のほかに、培養法の規格としてISO16000-17が定められている。これには真菌を検出する培地として、ジクロラングリセロール寒天培地(DG-18)とポテトデキストロース寒天培地(PDA)、麦芽寒天培地(MA)が定められ、培養温度と培養期間についても定められている。さらに、最近では顕微鏡による胞子の計数方法についてもISO 16000-20で規格化された。
COVID-19のパンデミックにより、新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)を中心に空気中のウイルスを捕集し検出する試みも複数報告されている8)。ウイルスは寒天培地には生育しないため、基本的に液体捕集法やろ過捕集法が実施され、PCR法による検出が行われている。
引用文献
1) 山﨑省二編、環境微生物の測定と評価、pp.111-114、オーム社、2001.
2) 柳 宇、浮遊微生物サンプリング法規準・同解説、pp.9-12、日本建築学会、2013.
3) 石松維世、室内環境における微生物対策(室内環境学会微生物分科会編)、pp.62-67、技報堂出版、2016.
4) International Organization for Standard, ISO 16000-16 Indoor air –Part 16 Detection and enumeration of moulds –Sampling by filtration, 2008.
5) International Organization for Standard, ISO 16000-18 Indoor air –Part 18 Detection and enumeration of moulds –Sampling by impaction, 2011.
6) International Organization for Standard, ISO 16000-17 Indoor air –Part 17 Detection and enumeration of moulds –Culture-based method, 2008.
7) International Organization for Standard, ISO 16000-20 Indoor air –Part 20 Detection and enumeration of moulds –Determination of total spore count, 2014.
8) Rahmani AR, Leili M, Azarian G, Poormohammadi A, Sampling and detection of corona viruses in air: A mini review, Sci Total Environ, 740, 140207, 2020.
(産業医科大学産業保健学部 石松維世) 2016年4月1日、2022年5月19日更新 ★