エアロゾルの濃度を表記する際に多く用いられるのは、次の3種類である。なお、以下で「粒径」の語を使用するときは、特に断らないかぎり、それぞれの粒径域で通常用いられている相当径を意味する。
1. 個数濃度
単位体積 (1 m3、1 cm3など) の気体中に何個の粒子が含まれているか、を表すのが個数濃度であり、単位はm-3 (またはcm-3)であるが、論文等ではparticles m-3, # m-3などの表記も見られる。概念としては単純であるが、実際問題としてはどのサイズまでを含んだ粒子数を扱うのかが微妙な点であり、どのサイズまでを測定可能な測定器でカウントしたのか、という問題とも関連する。たとえば、あるCondensation Particle Counter (CPC)では移動度径10 nmまで測定できていたが、別のCPCでは3 nmの小ささまで測定することができるならば、新粒子生成直後の粒子数濃度を測定する実験では大きく異なった結果が得られるだろう。一方、空気動力学径10 μm程度より大きい粒子はもともと非常に数が少なく(Junge分布を参照)、さらにチューブなどで吸引すると管内壁での壁面損失により速やかに失われてしまうため、このような粗大粒子 (粒径およそ2 μm以上)の個数濃度を正確に計測することは難しい。人の健康を守るための基準として個数濃度を用いる点については下記「3.質量濃度」の中で追加的に触れるが、アスベストについては従来から個数濃度により作業環境の管理濃度が定められている。
2. 表面積濃度
単位体積の気体中に含まれる粒子の表面積を合計した量を表すのが表面積濃度で、単位はm2/m3 = m-1であるが、論文中では慣用的にμm2/cm3のような表記もみられる。この概念が必要となるのは粒子の表面が問題となる現象、たとえばガス成分の粒子表面への収着や天然放射性核種の既存粒子への付着などを扱う場合である。また、呼吸器内部への工業ナノ材料粒子の沈着による影響の評価でも粒子の表面積が問題となる。球形粒子の場合は個数粒径分布が既知であれば容易に表面積粒径分布および表面積濃度に変換できるが、空隙率のある粒子やchain-like aggregateな形態のすす粒子など不定形な粒子が含まれる場合は拡散荷電を利用した表面積濃度測定法1)がある。
3. 質量濃度
単位体積の気体中に含まれる粒子の質量を合計した量を表すのが質量濃度で、単位はg m-3 (多く場合mg m-3, μg m-3, ng m-3)である。エアロゾルの一つの側面は、公害問題・環境問題としての汚染物質系の大気中浮遊粒子であり、これらは古くから質量濃度により規制されてきた。ここでも「どの大きさまでの粒子を含むのか」が問題となり、上限のサイズ (実際には使用するサイクロン・インパクターなど粒子分級器の50%捕集径) に応じてPM10, PM2.5などとよばれる質量濃度による環境基準値が設定されている (前者は日本では用いられていない)。一方、「どの小ささまで」については、質量濃度ではあまり厳密に議論されることは少ない。それは、粒形が小さくなるに従って質量は急激に小さくなり、大気中のエアロゾルの典型的な粒形分布では、accumulation mode range (蓄積領域: 粒径およそ0.1~1または2 μm) よりも大きな粒子の個数濃度に質量濃度が事実上支配されるためである。
人の健康を守るための環境基準あるいは排出基準として古くから使われてきた質量濃度であるが、上記のようにaccumulation modeより粒径が小さい粒子の質量は極端に小さいため、この表記の濃度によって生体影響を評価するのが妥当であるのかどうかについて議論がある。たとえば、排出直後の自動車排気ガスのようなAitken mode (あるいはnuclei mode, ultrafine particle, nano particleなど呼び方はさまざまであるが、空気動力学径およそ0.1 μm以下) の粒子は、個数濃度としては非常に大きな値であっても質量濃度による計測では測定限界付近の小さな値をとる。そのため、このような非常に小さな粒子の影響評価のための指標としては個数濃度を用いた方が適切である可能性が指摘されている。EUでは大気エアロゾルに対する個数濃度測定法の標準化について検討を進めてきた結果、CPCを用いた測定法の技術仕様 (CEN/TS 16976:2016) が定められた。この中では、「どの小ささまで」については最小粒径 (移動度径) を7 nmと示しているが、「どの大きさまで」の部分に曖昧なところがあり、 "a few" μmと記されている。これには、CPCで測定することができる上限の粒子径がはっきりしないという事情がある。ただし、空気動力学径0.1 μm以上の粒子数濃度は、それより小さい径の粒子数濃度より通常は数桁少ないため、個数濃度の計測においては測定可能な粒子の上限サイズの曖昧さが問題とはされることはないようである。
なお、エアロゾルに関係するさまざまな物理量・性質を分子にとり、エアロゾルが懸濁する気体の単位体積を分母にとれば、他にも濃度表示が可能である。たとえば、放射性エアロゾルを扱う場合は、放射能濃度としてBq m-3が使用される。
参考文献
1) Ntziachristos, L.; Polidori, A.; Phuleria, H.; Geller, M.D.; Sioutas, C. Application of a diffusion charger for the measurement of particle surface concentration in different environments. Aerosol Sci. Technol. 2007, 41, 571–580.
(産業技術総合研究所 兼保直樹) ★