ケルビン効果

Kelvin effect

 微水滴の成長は水滴表面から周囲の空間に飛び出ていく水分子の数と周囲から水滴表面に飛び込んでくる水分子の数のバランスで決まる。微水滴では,水滴表面付近のある水分子からみた近傍の他の水分子の数は平面の水面の場合よりも少なくなり,分子間引力による拘束が平面の場合よりも弱くなる。結果的に平面の場合よりも水滴表面から飛び出しやすくなり(蒸発しやすくなり),水滴半径が小さくなるほど,平衡状態を保つための水滴周辺の水蒸気飽和比(saturation ratio)が急速に大きくなる。これをケルビン(Kelvin)効果または曲率効果という。半径rの微水滴の平衡水蒸気圧es(r)と水平面の平衡水蒸気圧es(∞)の比Sは,

で表される。ここで,σとρLは温度Tにおける水の表面張力と水の密度,RVは水蒸気の気体定数である。

表に示す0℃における飽和比と水滴の臨界半径(水分子の数)の関係からもわかるように,空気中の水分子のランダムな衝突併合によって形成される水滴のエンブリオ(embryo)または芽は数十個の水分子からなる非常に小さなもので,高い過飽和度が存在しないとすぐに蒸発し,微水滴にまで成長することができない。水蒸気だけを含む(凝結核は含まない)清浄な空気中では,数百パーセントの水過飽和度(supersaturation)に到達しないと水滴が形成されない。


参考図書

Pruppacher,H.R. & J.D. Klett, Microphysics of Clouds and Precipitation , Kluwer Academic, 954p, 1997

Rogers,R.R. & M.K. Yau, A Short Course in Cloud Physics, Butterworth-Heinemann, 304p, 1989

Lamb, D., & J. Verlinde, Physics and Chemistry of Clouds, Cambridge University Press, 584p, 2011

(気象研究所・村上正隆) 2016年7月5日  ★