広義には、顔の一部又は全体を覆うものの総称であるが、ここでは、口又は鼻を覆うことで呼吸器の保護や衛生を目的とするマスクについて解説する。
現在市販されているマスクの種類は、JIS規格より、一般用マスク、医療用マスク、感染対策医療用マスク及び産業用マスク(呼吸用保護具)に分けられる。
・一般用マスク
微粒子状物質、バクテリアを含む飛まつや花粉などの体内への侵入を防御するとともに、自身から出るバクテリアなどを含む飛まつの空気中への飛散を防止することを目的としたマスク。
・医療用マスク
主に医療関係者の着用を想定し、微小粒子、バクテリアを含む飛まつ及び体液の体内への侵入を防御するとともに、バクテリアなどを含む飛まつの空気中への飛散を防止することを目的としたマスク。一般にサージカルマスクと呼ばれる。
・感染対策医療用マスク
生物粒子、飛まつ、空気中に飛散した体液などから保護するために、医療施設で使用する単回使用の呼吸用保護具。
・産業用マスク
事業場その他の場所において、空気中に浮遊する粒子状物質や有毒なガス又は蒸気物質を吸入することによって、人体に有害な影響を及ぼすおそれがある環境で使用する呼吸用保護具。
一般用マスク及び医療用マスクの性能要件と試験方法は、JIS T 9001にて定められており、一般用マスクは、バクテリア飛まつ捕集効率:BFE (Bacterial Filtration Efficiency)、微小粒子捕集効率:PFE ( Particle Filtration Efficiency)、ウィルス飛まつ捕集効率:VFE (Viral Filtration Efficiency)、花粉粒子捕集効率、圧力損失、遊離ホルムアルデヒド、特定アゾ色素、及び蛍光などの試験項目がある。なお、一般用マスクは、BFE、PFE、VFE及び花粉粒子捕集効率については、メーカーが製品にて標榜したい項目のみを試験することができる。
医療用マスクの試験項目は、一般用マスクの花粉粒子捕集効率がなく、一方で人工血液バリア性と可燃性の試験項目が追加される。
一般用マスク及び医療用マスクは、着用時に顔とマスクの間に隙間が生じやすく、容易に外気の粒子がマスク内に侵入するため、次に示す産業用マスク(呼吸用保護具)に比べて防御効果は期待できない。
産業用マスクは、有害な微粒子やガスなどが存在する職場環境において、吸入ばく露による労働者の健康障害を防ぐ目的で使用する個人用保護具である。前述の一般用マスクとは異なり、国家検定、消防・危機管理用具研究協議会(CFASDM規格)やJIS規格において構造や性能が定められている。呼吸用保護具は図1に示すように作業環境や有害物質の組成に合わせて多くの種類がある。まず環境の酸素濃度が18%未満の場合は“給気式”を使用しなければならない。酸素濃度が18%以上の環境においては“ろ過式”を選択でき、有害物質が粒子状の場合は“防じんマスク”、ガス又は蒸気の場合は“防毒マスク”を用いる。粒子及びガスが混在する場合には防じん機能付き吸収缶を備えた“防じん機能付き防毒マスク”を使用する。
また、図1中に太字で書かれている防じんマスク、電動ファン付き呼吸用保護具、防毒マスクは、労働安全衛生法において型式検定制度がとられており、厚生労働省の委託を受けた公益社団法人産業安全技術協会において認証を受け、型式検定合格標章を付した製品のみが防じんマスク、電動ファン付き呼吸用保護具、防毒マスクとして販売または使用ができる。
防じんマスク・防毒マスクにおいても、正しい着用と保守をしていない場合では防護効果が著しく低下することが知られている。特に着用時に顔とマスクの間に隙間ができると有害物質がそこから流入することから、思わぬばく露をする危険性がある。この問題を大きく改善するのが電動ファン付き呼吸用保護具である。このマスクは内蔵された小型の電動ファンが、フィルターでろ過した清浄空気を着用者の口部に送風する機構を有している。この送風がマスク内部を外気よりも陽圧に保つため、顔とマスクの間に隙間があっても有害物質が流入せず、高い防護性能を維持できる。
図1 呼吸用保護具の種類
参考資料
・JIS T 8151、8152、8154、8157、9001、9002
・一般社団法人 日本衛生材料工業連合会、マスクの表示・広告自主基準
・日本エアロゾル学会(編)『エアロゾル用語集』、京都大学学術出版会、2004.
(興研株式会社 基礎研究所 湯浅 久史) 2022年4月26日更新 ★