Aerosolpedia 1st (2016) の公開に寄せて
日本エアロゾル学会では,2004年に設立20周年を記念してエアロゾルに関わる基礎から応用までの全領域から重要な用語102語を選んで解説した「エアロゾル用語集」(笠原三紀夫編集委員長,エアロゾル学会編集,京都大学学術出版会)を発行しました。その後10年余が経過し,科学・技術・社会の急速な変化の波は,図1に例示するようなエアロゾル学の研究対象領域や包含すべき学問分野の伸長・発展を促すとともに,学会員の世代交代を加速させています。このため用語集の項目の追加や内容も一部に陳腐化が認められ,更新の必要性が生じています。また,異分野間の研究交流が活発化する一方で,分野の細分化によりエアロゾル学の共通項の認識が徐々に希薄になってきていることも懸念されるところです。日進月歩で発展する学問領域や社会的要請に対して,本学会が異分野研究者の烏合の衆でなく,基本理念に基づく学術団体として持続的成長を続ける上で,新たなエアロゾル学の確立と体系化は不可避な課題であると考えます。
エアロゾル学の体系化は,異分野の研究者間においてエアロゾル学の新たな構築を意識した積極的な交流,議論の深化の積み重ねにあります。一方で,様々なレベルや階層からなる会員あるいは一般の方がインターネット上の玉石混合の情報に惑わされることなく,手軽にエアロゾルの専門用語の正しい意味を知り情報共有できることも必要です。本学会では前者に対する第一歩の試みとして,学会誌「エアロゾル研究」の第31巻3号から「エアロゾル学基礎講座」の連載がスタートします。ここでは,エアロゾル研究に必要な共通的な基礎知識を異分野の研究者から成る作業部会で議論し,内容の吟味・集約を図っています。また,後者の取り組みとして,このたび「web版エアロゾル用語集」(AerosolPedia)を公開することになりました。この用語集は,本学会の将来計画委員会が中心となって作業を進めてきたもので,従前の用語集から項目数が大幅に増加し,専門家の査読を経てインターネット上で利用できることから利便性や更新性に優れたものとなっており,より詳細な内容を知りたい場合は文献が明示されています。会員の皆様のお役に立つものであることはもちろん,学会の社会的貢献としての意味もあります。なお,本用語集の作成にあたっては,構想段階から長田和雄将来計画委員会委員長に多大なご尽力を賜るとともに,項目記事の執筆には会員諸氏のご協力を得ました。ここに記して感謝の意を表します。
現在は,「エアロゾル学基礎講座」とAerosolpediaが両輪となって,エアロゾル学の体系化への道を試走し始めた段階ですが,今後とも会員の皆様からの忌憚のないご意見やご要望等をうかがいながら,発展させていく所存です。ご協力の程よろしくお願い申し上げます。
2016年8月
日本エアロゾル学会 第16期会長
東野 達
図1 エアロゾルの関連分野(みんなが知りたいPM2.5 の疑問25,成山堂,2014,一部改変)
Aerosolpedia 2nd (2022) の公開に寄せて
Aerosolpedia 1stが、東野 達・日本エアロゾル学会会長(当時)の構想と主として将来計画委員会による編纂を経て「web版エアロゾル用語集」(Aerosolpedia)として完成し公開されてから約6年過ぎました。この経過時間はさほど長くはありませんが、それでも学界・学会を取り巻く情勢には大きな変化が生じてきました。学術情報の取得・発信のプラットフォームの主役は印刷物からインターネット・電子媒体に交代してしまったと言えますし、そのうえ、物理的移動や対面を伴わないオンライン会合による研究討論・研究交流までもが日常的なこととなりました。これに加えて、日本エアロゾル学会では、とくにCOVID-19問題を契機として、これまで関わってきた学界・産業界よりもさらに外側の社会とも疎通することの重要性をますます認識するようになりました。
このように、学術情報に対するアクセスのハードルが下がるとともに、学会や学問と社会の接点が増加するなかで、日本エアロゾル学会の貴重な財産のひとつであるAerosolpedia 1stが持続・発展することの意義は明らかに高まっていると考えて、内容の改訂および充実と、学会外部への発信に役立つ改良を施した新版をつくるためのチーム(Aerosolpediaワーキング・グループ)を2020年に設置しました。以来、Aerosolpedia 1stでも中心的な役割を果たされた長田和雄副会長にワーキング・グループ座長として新版の構想と編纂を主導していただき、ここにAerosolpedia 2ndとして公開するに至れたものです。長田座長を始めとするワーキンググループの皆様、内容の改訂にあたってくださった学会会員の方々のご尽力、ご協力に心から感謝申し上げます。
私としては、このAerosolpedia 2ndに対しても、持続のみならず後日の時勢にも合った発展がなされることを願っております。そのためにも、学会会員だけでなく、会員でない方々からもご意見やご要望をお寄せいただけるとまことに有り難く存じます。
2022年8月
日本エアロゾル学会 第19期会長
島田 学