図1 エアロゾルの生成・成長プロセス
・基礎方程式
体積 v~v+dvの間にある粒子の時刻tにおける粒子の個数濃度 f ≡ n(v,t)dvは,以下の一般化動力学方程式で表される。すなわち,
ここに(1)式は,粒子の個数濃度の時間変化が(右辺第一項から順に)核生成,凝縮,凝集,発生源からの生成,除去(沈着,蒸発,化学反応等を含む)の和として表せることを示している。さらに媒質気体の流体力学的な輸送・拡散効果を考慮して移流項,拡散項を付加すると,(2)式を得る。
・シミュレーション手法
一般化動力学方程式の解法として,連続型と区間分割型の手法がある。
連続型手法
連続型の代表的な手法にモーメント法がある。モーメント法では(2)式の両辺にvk (kは整数)を乗じたモーメント
の式を用いる。ここでエアロゾルの粒径分布に何らかの関数型を想定して代入すると,粒径分布変化をパラメータの経時変化のみで表せる形となる。粒径分布としては対数正規分布,ガンマ分布などが用いられる。この手法は解くべき方程式の数が少なく,短時間で現象をシミュレーションできるが,対象は全過程における粒径分布が想定した関数型(例えば対数正規分布)で近似可能な場合に限定される。
連続型手法としては,他にも
などとしてvを変数Jに変数変換して解く J-変換法等が適用されている。
区間分割型手法
連続型手法ではエアロゾルの全粒径範囲において体積濃度等が一定であると仮定するのに対し,区間分割型手法では図2のように粒子の体積で表した粒径範囲を複数の区間(vl-1≤v<vl)に分割し,区間 ごとに保存式を立てて解く。このため連続型手法に比べてより汎用的な手法である。さらに小さなモノマーの生成等を表すため,ある程度の大きさのクラスターに成長するまでは構成モノマー数ごとに現象を解く離散分割法を採用し,これらを組合せた離散-区間型モデル(図3)が広く用いられている。
モノマーの生成と凝集による成長が同時に起こるような場合,しばしば粒径分布はダブルピークを持つ形となり,対数正規分布等を仮定する連続型手法ではシミュレーションすることができない。しかし区間分割型手法では,このような現象に柔軟に対応することができる。
しかし,粒径分布を矩形の集合体で表す一般的な区間分割型手法では,区間の上限,下限に粒径差を持つ粒子群をひとつの粒径で代表させるため,特に各区間の間の粒子の移動(凝集による粒径成長など)に関して時間発展計算の過程で数値的な誤差を生じる。このような誤差を低減するため,区間移動モデル,台形セクショナルモデル等の改良型モデルが提案されている。
図2 区間分割型手法
図3 離散-区間型モデル
参考文献
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(芝浦工業大学・諏訪 好英) 2022年8月6日 ★