花粉

Pollen

花粉とは、種子植物の花の雄蘂(おしべ)から産する微粒子である。植物の種によって大きさが異なり、直径は数 µmから数10 µmのものが多い(日本花粉学会, 2008)。花粉は大気中に飛散すると遠方まで運ばれることがある。花粉症の原因物質として作用することもある。花粉症を引き起こす植物としては、杉やヒノキ、ブタクサなどが知られている。

 花粉シーズン(2~5月)における花粉飛散状況は、2002年から2021年にかけては環境省花粉観測システム(はなこさん)」で知ることができた。しかし、民間(例:ウェザーニュース・花粉情報)や自治体(例:東京都の花粉情報)等による情報提供が増えてきたことから、2021年シーズンをもって「はなこさん」による情報提供は終了した(環境省, 2021)。

 花粉の飛散状況を知るには、代理表面へ沈着した花粉数を数える手法(ダーラム法)の他、レーザー光の散乱光を利用してリアルタイムに花粉を判別し、個数濃度をカウントする手法がある(例:リアルタイム花粉モニター(株式会社大和製作所)、ポールンロボ(ウェザーニュース))。なお、紫外線による花粉の自家蛍光情報も加味して花粉濃度を測定する装置もある(鈴木ら、2005)。

 花粉や胞子の沈降速度については古くから測定例が報告されている(Gregory, 1961)。しかし、信頼できる測定値を得るには工夫が必要である。測定方法としては、ストロボカメラやビデオ画像を用いる手法などがある。また、花粉の密度は乾燥によっても変化するので、花粉粒子の個別密度の測定にも工夫が必要である。Hirose & Osada (2016)による沈降速度の測定では、直径約28 μmの杉とヒノキ、21 μmのブタクサについては、花粉粒子の密度を1 g/cm3と仮定して、それぞれの直径とストークスの式から得られる沈降速度と測定した沈降速度が概ね一致した。しかし、直径約46 μmの黒松と44 μmの赤松の花粉については、実測値の沈降速度の方が低かった。これは松の花粉に気嚢が付属することで、花粉粒子全体としての見かけ密度を下げ、1 g/cm3よりも小さくなるためであろうとしている。

 大気中の花粉は季節に応じて優占種が遷移する。2~5月にかけて東京西部で花粉を観測した例として、Uetakeら(2021)がある。従来は花粉の形態から植物種を同定していたが、この研究例では1日毎にフィルターへ採取した試料のDNA解析から植物のフェノロジーを調べた。

写真 赤松の花粉(Keyence VHX-5000を用いて撮影、2000倍)。右下でミッキーマウスの耳のように見える部分が気嚢。左上の粒子は気嚢が上を向いた状態の写真であり、大気中ではこの姿勢で沈降する割合が多い。図中の赤線は100 µmを示す。撮影:長田和雄

文献

Gregory, P.H.: The microbiology of the atmosphere, Nabu Press, 251p, 1961.

Hirose, Y. & Osada, K., Terminal settling velocity and physical properties of pollen grains in still air, Aerobiologgia, 32, 385–394, 2016.

日本花粉学会 (編)、花粉学事典、朝倉書店、454p, 1994.

環境省、「環境省花粉観測システム(愛称:はなこさん)事業の廃止に伴う花粉自動計測器を用いた花粉観測の終了について」、令和3年12月24日.

鈴木基雄, 登内道彦, 村山貢司, 光本浩太郎:鈴木自家蛍光特性を利用したスギ・ヒノキ花粉の測定と2005年春に出現した早朝の花粉高濃度現象について, エアロゾル研究, 20, 281-289, 2005.

Uetake, J., and others, Visualization of the seasonal shift of a variety of airborne pollens in western Tokyo, Science of the Total Environment, 788, 147623, 2021.


(名古屋大学・長田和雄) 2022年4月2日  ★