C. E.ユンゲ(Christian E. Junge: 1912.6.2~1996.6.18)が1953年に提出した大気エアロゾルの数濃度に関する粒径分布関数で、以下の式で表される (Junge, 1953, 1955, 1956, 1958, 1963):
dN/d(logr) = cr-β N: 粒子の数濃度、r:粒子半径、c, β: 定数.
大気エアロゾルは大気電気、大気光学、雲物理、大気化学、大気汚染などの現象において重要な役割を果たし、その役割はエアロゾルの粒径に大きく依存する。したがって、それら現象の研究には広い範囲にわたる粒径分布の測定が必要であるが、1950~60年代には一部の粒径範囲についての測定例に限られていた。このような状況の中で、大気化学(atmospheric chemistry)の開拓者として知られるユンゲ(Duce, 1997)は、測定装置の限界にしばられることなく「大気エアロゾル」という一般的・普遍的な存在を強く意識し、その濃度と一般的粒径の関係に興味を持った(Junge: 1963, Jaenicke: 2015)。ユンゲは海洋ではなく大陸で、人が住む地域についての自分の測定データや入手可能な他の測定値を組み合わせて、0.08-10μmの粒径についてのエアロゾルの数濃度の分布、dN/d(log r) vs d(logr)rを考察した。図1がユンゲ分布を提唱した代表的な図なので詳しく説明しよう(Junge 1953, 1958, 1963)。
図1 自然エアロゾルの全域粒径分布(Junge, 1963)
曲線1, 2, 5はフランクフルトでの測定値である。ただし、同時測定ではなく、測定方法も異なる。曲線1:イオン計数の核数から換算、曲線2:インパクターのデータから導出、0.1 μm以下の点はエイトケン核の全数からエイトケン核の半径間隔を⊿logr = 1.0と仮定して計算、曲線5: 11日間にわたる沈降(sedimentation)データの平均値。曲線3,4はツークスピッツェ(Zugspitze, 海抜高度3000 m)での同時測定で測定方法は曲線1,2と同様。曲線1-5に対する測定回数はそれぞれ11, 25, 12, 20, 4であった。
ユンゲはこれらのデータから以下の特徴を読み取った(Junge, 1963)。
(1)粒径の下限は日によって変動し、小イオン(0.01 μmのレベル)の粒径との間にはあるギャップがある。
(2)粒径の上限は20 μm程度である。
(3)分布の最大値は0.01~0.1 μmの間にあり、通常0.03 μm程度である。
(4)粒径>0.1 μmでは数濃度が規則的に減少し、べき乗則 dN / d(logr) = c r -β で近似でき、β は約3、 c は定数である。
この4番目の特徴がユンゲ分布と言われるものである。0.1~10 μmの粒径範囲では右下がりの直線になると判断し、種々の観測結果と比較し、βは3あるいはその前後の値で観測値とのいい一致をみた。ユンゲがこの分布を口頭発表したとき「半径分布に関するr -3 則は大気ダストにだけ存在するではなく、星間物質でも存在する(A r- 3-law of radii distribution is not present in atmospheric dust only, but also in interstellar material.)」と天文学者であるH. F. Siedentipfがコメントした (Jaenicke: 2015) 。
現在では、大気エアロゾル数濃度の粒径分布は、図2のように一般的には二ないし三山型であると認識され(Wilson et al., 1977, Finlayson-Pitts and Pitts, Jr., 1999)、それらの粒度分布関数は対数正規分布関数の和として表される(Seinfeld and Pandis, 2006)。このように、ユンゲ分布を定量的に応用することは、今ではほとんどない。しかし、大気エアロゾル一般を認識し、その粒径分布について、測定法や測定例が限られている中から一般則を導出しようとしたのは大胆な試みであり、新しいディシプリンとなる「大気化学」への大きな飛躍であった。
図2 はっきりと測定された三山型粒径分布の例: 測定値と対数正規分布による近似曲線 (Dg, SDgはそれぞれ、粒径の幾何平均と幾何標準偏差) (Whilson et al., 1977)
参考文献
Duce, R. A., Christian Junge (1912-1996). EOS,78, 39-40, 1997.
Finlayson-Pitts, Barbara J., and Pitts, Jr., James N., Chemistry of the Upper and Lower Atmosphere: theory, experiments, and applications, pp. 351-358, Academic Press, 1999.
Jaenicke, R., The Investigation of Air Chemistry—Christian Junge (1912-1996). Personal Communication., 2015.
Junge, C., Die Rolle der Aerosole und der gasförmigen Beimengungen der Luft in Spurenstoffhaushalt der Troposphäre. Tellus, 5, 1-26., 1953.
Junge, C. E., The Size Distribution and Aging of Natural Aerosols as Determined from Electrical and Optical Data on the Atmosphere. J. Meteor., 12, 13-25, 1955.
Junge, C., Recent investigations in Air Chemistry. Tellus, 8, 127-139., 1956.
Junge, C. E., Atmospheric Chemistry. Advances in Geophysics, 4,1-108. , 1958.
Junge, C. E., Air Chemistry and Radioactivity, pp. 382, Academic Press, New York., 1963.
Wilson, W. E., Spiller, L. L. Ellestad, T. G., Lamthe, P. J., Dzubay, T. G., Stevens, R. K., Macias, E. S., Fletcher, R. A., Husar, J. D., Husar, R. B., Whitby, K. T., Kittelson, D. B., Cantrell, B. K., General Motors Sulfate Dispersion Experiment: Summary of EPA Measurements. J. Air Pollution Control Association, 27, 46-51., 1977.
Seinfeld, J. H., Pandis, S. N., Atmospheric Chemistry and Physics: from air pollution to climate change, 2nd ed., John Wiley & Sons. pp. 350-381, 2006.
(東京農工大学 名誉教授・原 宏) ★