化学マスバランス(CMB)解析

Chemical Mass Balance Analysis

CMB(Chemical Mass Balance)解析はレセプターモデルの中で最も広く用いられているモデルである。この解析により、ある地点で採取したエアロゾル粒子に対する各種発生源の寄与濃度を推定することができる。CMB解析には、発生源を特徴付ける元素や化合物を含む化学組成データ(発生源プロファイルと呼ばれる)が発生源毎に必要で、環境中のエアロゾル粒子についても同じ元素や化合物についての分析値(環境データと呼ばれる)が必要である。別項で解説するPMF解析では、複数個の環境データが時系列で必要なのに対し、CMB解析では1つの環境データから解析可能である。

CMB解析では、観測地点(レセプター)の粒子濃度に影響を与えるすべての発生源に関して発生源プロファイルが把握されていることを前提としている。すなわち、発生源がp個存在し、それらから排出された粒子は大気中での反応によって増減・消滅せず、質量変化しないとすると、観測地点での大気粒子濃度Cは各発生源からの寄与濃度Sjの線形和となる。

同様に、粒子の成分iの質量濃度Ci は次のようになる。

ここで、aijは大気中粒子濃度の発生源jからの寄与濃度Sjうち成分iの比率を示す。上式の連立方程式を解くことにより各発生源の寄与濃度を求めることができ、計算方法としては近年では有効分散最小自乗法が主に用いられる。

CMB解析の適用に際しては、対象地域の主要な発生源プロファイルと、計算に利用する指標成分を選定する必要がある。現状に合っていない発生源プロファイルや、影響が大きい未把握の発生源がある場合には、実状と合わない寄与濃度推定結果が算出されてしまう。また、環境データで発生源の特徴を示す指標成分を測定していない場合も同様である。粒子の主な発生源としては、固定発生源(石炭燃焼、石油燃焼、廃棄物焼却、金属精錬等)、移動発生源(ディーゼル車、ガソリン車、タイヤ摩耗等)、植物燃焼(農業廃棄物燃焼、森林火災等)、土壌、海塩等の一次粒子と二次生成粒子が挙げられる。CMB解析は主に一次粒子の寄与推定に用いられるが、近年ではチャンバー実験等で得られた二次生成粒子の組成情報を発生源プロファイルとみなし、二次生成粒子の寄与を推定する事例も報告されている。

米国EPAではCMB解析に用いるソフトウェアを提供している。(20223月現在のバージョンはEPA-CMBv8.2)

 https://www.epa.gov/scram/chemical-mass-balance-cmb-model

CMB解析による発生源寄与割合の推定結果例を示す。これはミネソタ州(米国)におけるPM2.5 の発生源寄与割合を推計したものである(Chen et al., 2010)。PM2.5の発生源は土壌粉じん、カルシウムが多く含まれる粉じん、低級鉄鉱石、道路用塩、自動車排気ガス、バイオマス燃焼、石炭火力発電、二次エアロゾルに分類された。

ミネソタ州(米国)におけるPM2.5 の発生源寄与割合をCMB解析により発生源寄与割合を推計したもの(Chen et al., 2010のデータを元に作成)

引用文献

Chen, L-W. Antony, et al.: Chemical mass balance source apportionment for combined PM2.5 measurements from US non-urban and urban long-term networks, Atmospheric Environment, 44, 4908-4918, 2010


参考文献

Miller-Schulze, J.P., Shafer, M.M., Schauer, J.J., Solomon, P.A., Lantz, J., Artamonova, M., Chen, B., Imashev, S., Sverdlik, L., Carmichael, G.R., Deminter, J.T. : Characteristics of fine particle carbonaceous aerosol at two remote sites in Central Asia, Atmospheric Environment, 45, 6955-6964 , 2011.

Watson, J.G., Cooper, J., Huntzicker, J.: The effective variance weighting for least squares calculations applied to the mass balance receptor model, Atmospheric Environment, 18, 1347-1355, 1984.

飯島明宏, 入門講座 大気モデル-第5講 レセプターモデル-, 大気環境学会誌, 46, A53-A60, 2011.


(名古屋市環境科学調査センター・山神真紀子) 2022年414  ★