取り込み係数(uptake coefficient)とは,気体分子の液体/個体表面上への取り込み(不均一反応)に関し,単位時間内に気体分子が凝縮相(粒子)に衝突する数に対し,消失した気体分子の割合を表す。気体分子の凝縮相への取り込み(不均一反応)は成層圏においては,極域成層圏雲(PSC)上でのハロゲンの不均一化学反応が南極のオゾンホールの生成機構に大きな寄与を持つことが知られている。対流圏では,対流圏オゾン生成に関わる不均一反応として,HO2ラジカルやN2O5などの気体のエアロゾル粒子中への取り込み係数計測などの研究が近年進められている。
取り込み係数(γnet)は抵抗モデルを利用した式1で表現される。
Γg(気相拡散)は気体分子が凝縮相表面に衝突する頻度
α (適応係数)は気体分子が凝縮相に衝突する数に対し,凝縮相表面へ吸着および吸収される割合(確率)。
Γsol: 凝縮相内での拡散速度
Γrxn: 凝縮相内で化学反応速度
ΓsolとΓrxnが同じ項に存在しているのは凝縮相中で拡散および化学反応が同時に起こるためである。抵抗モデルでは,対象としている気体分子の濃度や凝縮相の状態・成分により,取り込み係数の支配要因となる項が異なる。例えば,気相拡散が支配的な条件であれば,式1の1/Γgの項は0となり無視できる。従って,α, Γsol, Γreacの項だけを考えることにより,取り込み係数を求めることが可能になる。実験的に取り込み係数を求める方法としては,Knudsen cellやフローチューブを用いた方法が主に用いられている。室内実験により,取り込み係数を求める際には,上記に述べた支配因子がどのように関わっているか注意する必要がある。これまで実験的に求められてきた様々な気体分子の取り込み係数に関する情報はIUPACやNASA/JPLなどのwebサイトでまとめられている。
参考文献
秋元肇, 大気反応化学, 朝倉書店, 2014.
Finlayson-Pitts, B. J.; Pitts Jr, J. N., Chemistry of the Upper and Lower Atmosphere, Theory, Experiments, and Applications, Academic Press, 2000.
Evaluated kinetic and photochemical data for atmospheric chemistry (IUPAC)
Task Group on Atmospheric Chemical Kinetic Data Evaluation IUPAC
Chemical Kinetics and Photochemical Data for Use in Atmospheric Studies (Section5)
(海洋研究開発機構・竹谷文一) 2016年4月20日 ★