雲内洗浄

in-cloud scavenging (rainout)

エアロゾルや微量ガスが雲内で雲粒に取り込まれる過程である.エアロゾルの雲内洗浄は,核洗浄(nucleation scavenging)衝突洗浄(impaction scavenging)からなる1.核洗浄は雲生成の初期段階に雲底付近で生じる洗浄過程であり,雲凝結核(cloud condensation nuclei;CCN)となるエアロゾルが雲粒を形成する凝結過程(condensation process)である.衝突洗浄はCCNとしての活性化能が低く,核洗浄されなかった雲間隙粒子(cloud interstitial aerosol;CIA)と雲粒との衝突併合過程(collision-coalescence process)であり,雲内および雲底下で起こる(図1).

図1 エアロゾルと微量ガスの雲内洗浄と雲底下洗浄

衝突洗浄は,ブラウン拡散(Brownian diffusion)さえぎり(interception)慣性衝突(inertial impaction)泳動(phoresis)による(図2).泳動には温度勾配に基づく熱泳動(thermophoresis),濃度勾配に基づく拡散泳動(difusiophoresis),電位勾配に基づく電気泳動(eletrophoresis)があるが,エアロゾルと雲粒との衝突を促進する場合と抑制する場合がある.雲粒生成時には潜熱により雲内空気は暖められるため,熱泳動によりエアロゾル粒子は雲粒から遠ざけられる.一方,凝結により雲粒周辺の水蒸気圧は低下するので対流(convective flow;ステファン流 Stefan flow)が起こり,拡散泳動によりエアロゾル粒子は雲粒に近づけられる.通常,熱泳動が拡散泳動を上回る.エアロゾル粒子が帯電している場合には,雲粒と異なる電荷をもつエアロゾル粒子が電気泳動により近づけられる.

図2 水滴とエアロゾル粒子との衝突機構(文献1をもとに作成)

 衝突洗浄では,粒径が小さいほど(0.1 µm未満),粒径が大きいほど(2 µm以上),洗浄効率が高くなる(雲底下洗浄 図1を参照).これは粒径が小さいほどブラウン拡散が支配的になり,粒径が大きくなるほどさえぎり,慣性衝突が支配的になるからである.

 上述したように,雲内洗浄には様々な機構があり,きわめて複雑であるが,ほとんどは核洗浄による2.雲生成の初期段階では過飽和度が低いことから,核洗浄に有効なCCNは粒径の大きなエアロゾル粒子である(雲底下洗浄 図1を参照).過飽和度が上昇するにつれて,粒径がより小さい粒子がCCNと核洗浄されるようになる.

【引用文献】

1. Lamb, D., Verlinde, J., Physics and Chemistry of Clouds, pp.484-500, Cambridge University Press, 2011.

2. Alheit, R.R., Flossmann, A. I., Pruppacher, H. R., A Theoretical Study of the Wet Removal of Atmospheric Pollutants. Part IV: The Uptake and Redistribution of Aerosol Particles through Nucleation and Impaction Scavenging by Growing Cloud Drops and Ice Particles. Journal of Atmospheric Science, 47, 870-887., 1990.

(早稲田大学・大河内博) 2016年5月9日  ★