放射性核種を含んだエアロゾルのことを、放射性エアロゾルと呼ぶ。放射性核種には、天然放射性核種と人工放射性核種がある。天然放射性核種は更に、宇宙線生成核種と地球起源核種とに分類される。人工放射性核種には、様々な種類がある。大気圏内核実験(1981年に中止)や原子力発電所等の事故などにより、大気中に放出され、その一部は現在も大気を含めた環境中に残存する。その大半は、1950年代から60年代前半にかけて行われた大気圏内核実験によるフォールアウト(放射性降下物)である。フォールアウトは、核実験に起因することに限定して使われてきたが、原子力発電所事故などで環境中に放出された放射性物質が地上に降下する場合にも使用される。
1) 天然放射性核種
天然放射性核種の生成過程の概要を図1に示す。
図1 天然放射性核種の生成過程の概要
1-1)宇宙線生成核種
宇宙線には、陽子、中性子など宇宙にある一次宇宙放射線と、大気と衝突してできる二次宇宙放射線がある。これら宇宙線と大気主成分の窒素、酸素、アルゴンなどが核反応によってトリチウム(3H)、炭素14(14C)やベリリウム7(7Be)など約20種類の放射性核種が生成される。半減期の短い核種は大気の混合と沈降過程に関する天然のトレーサーとして、また半減期の長い核種は年代測定に利用される。
1-2)地球起源核種
地球誕生以来存在していたものである。壊変系列を構成するものとしないものがある。
・壊変系列あり:
トリウム系列(232Thから安定核種208Pbまで)
ウラン系列(238Uから安定核種206Pbまで)
アクチニウム系列(235Uから安定核種207Pbまで)
ネプツニウム系列(237Npから安定核種205Tlまで)
これらの壊変系列の質量数には規則性がある。トリウム系列の核種では4の倍数、ウラン系列の核種では4の倍数+2、アクチニウム系列の核種では4の倍数+3である。ネプツニウム系列は4の倍数+1であるが、237Npの半減期が他の3核種に比べて桁違いに短かったため既に天然には存在していない。4の倍数という規則性は、質量数4のα粒子が放出されるα壊変が起きていることに起因する。
壊変系列の中で生じるラドン(トリウム系列の220Rn(トロント呼ばれることもある)とウラン系列の222Rn)は、大気中に希ガスとして放出され、その後の壊変系列で生じるラドン壊変生成物、例えば鉛(214Pb, 212Pb )やビスマス(214Bi, 212Bi)は、単独(非付着成分)または大気エアロゾルに付着して(付着成分)放射性エアロゾルとして大気中に漂う。ラドン壊変生成物は、一般公衆の被ばくにおいて、約半分を占め、タバコに次ぐ第2の肺がん要因とされる。2009年にはWHOから「屋内ラドンハンドブック-公衆衛生の観点から-」1)が刊行されるなど、ラドン高濃度地域では健康影響との関連に関心が集まっている。
・壊変系列なし:代表例40K
天然カリウムに0.0117%含まれるカリウム40(40K)は、食物を通して摂取される代表的な核種である。成人男性(体重60kg)の体内では、約4000Bqが存在する。
2)人工放射性核種
人工放射性核種を含む放射性エアロゾルは、1970年代頃までは大気圏内核実験が行われていたため、日本を含め世界中で観測された。1981年に大気圏内核実験が中止された後、大気中濃度は下がり続けていたが、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故では日本での測定値でも大きなピークを示すほど世界各地に飛来した。そして、2011年福島第一原子力発電所事故では、やはり大きなピークを示すこととなった。図2には代表的人工核種であるセシウム(137Cs)とストロンチウム(90Sr)の大気中濃度の経年変化を示した2)。これら2核種は、いずれも核分裂生成核種であり、物理半減期が137Csは30.2年、90Srは28.8年といずれも長い。そのため過去の核実験由来なのか、その後に起きた原発事故由来なのかの区別は難しい。
図2 大気浮遊塵中の137Csと90Sr濃度の経年変化2)
References
1) World Health Organization, WHO handbook on indoorradon: a public health perspective, 2009.
2) 日本の環境放射能と放射線
(放射線医学総合研究所・福津久美子) 2016年5月3日 ★