リモートセンシングは言葉通り,遠く離れた所(リモート)から対象物に触れずに計測する(センシング)事である.人工衛星によるリモートセンシングは上空から地球を観測し,知りたい情報を取得する事と言える.地上からのエアロゾル観測(例えばAERONET)もグランドリモートセンシングとして,空からの人工衛星観測と併せてエアロゾルリモートセンシングを支えている.
衛星リモートセンシングの特長は
1. 一度に広い範囲を観測できる広域性,
2. 同一のセンサで観測できる均一性,
3. 一定の間隔で繰返し観測できる反復性,
4. 長期間に渡って観測できる継続性,
5. 様々な波長で観測できる多波長性(人の目では見られない情報も観測可能),
が挙げられる.上記2でセンサという言葉を使っているが,人工衛星からの観測を実施するには,次の3つのものが必要である.
1. 人工衛星を打ち上げるロケット,
2. 人工衛星本体(プラットフォーム),
3. 対象物を計測するセンサ.
ロケット,プラットフォーム,センサそれぞれに長い研究技術開発の歴史があり,その結果として多くの国々が人工衛星を打ち上げ運用している.(詳細は,ESA, JAXA, NASA等のHPを参照の事)
人工衛星リモートセンシングにより,エアロゾル研究は画期的に進展した.しかし,グローバルな情報取得を得意とする衛星観測データだけから,1万分の1mm程度の微小粒子で,質的・量的な時空間変動が著しい大気エアロゾルを定量的に捉える事は難しい.エアロゾルの実体把握には,地上観測や実験,理論,計算機シミュレーション等あらゆる手段を駆使した総合的な解析が必須である.
このような総合的な解析の端緒となり,エアロゾル観測に多大な貢献をした2つの衛星搭載センサを紹介する.POLDERとMODISである.POLDERはCNESが開発したセンサで,多方向偏光観測を特徴とし「偏光センサ」とも呼ばれる. POLDER 1,2号は,それぞれ1996年と2002年に日本の地球観測プラットフォーム技術衛星ADEOS衛星ⅠとⅡに搭載された.いずれも短命だったが,偏光データがエアロゾル特性分布の導出に有用であることを実証した. POLDER 3号は2004年フランスの小型衛星PARASOLに搭載され,NASAのA-trainと呼ばれる複数衛星コンステレーション(地球観測衛星隊列)の一翼を担った.2009年末にPARASOL衛星はA-train から離脱したが,その後2013年に至るまで9年間に渡ってエアロゾルや雲に関する貴重な観測データをもたらした.
MODISはA-train の主力として,NASAによって開発された可視・赤外域に36バンドの観測波長帯を持つセンサである.同じ仕様のMODISセンサが、1999年Terra衛星に,2002年Aqua衛星にそれぞれ搭載されている事からも,NASAの期待の程が伺われる.MODISは期待通り,エアロゾルの光学的特性(光学的厚さや粒径分布)、雲分布、海面水温、海色(クロロフィルa濃度)、積雪分布、雪氷面温度、植生指数、森林火災の検出などの地球環境に関する多様で多大な成果をもたらしている.長寿で今もデータを送り続け,用途毎に高次処理されたデータがNASA から提供されている.
POLDERやMODISの成果は,その後の人工衛星リモートセンシングに大きな影響を与えた.両センサの直接の後継機が気象衛星に搭載される計画であるほか、2017年12月23日には、両センサの利点を併せ持つ多波長偏光センサSGLIが,日本のJAXAが打ち上げたGCOM-C(しきさい)衛星に搭載された.SGLIは近紫外波長から熱赤外に至る広波長域に19の観測バンドを持ち,近紫外から近赤外域では250 mの高空間分解能での観測を実施する.赤・近赤外の2バンドでは偏光観測を実施し,世界一の空間分解能(1 km)で全球的な偏光データを提供し,エアロゾルリモートセンシングに新たな1ページを開いた.GCOM-C/SGLIデータを用いたインドネシアの森林火災由来煤煙エアロゾル解析例を挙げる (S.Mukai et al. 2021).
長寿センサとして忘れてならないのは,TOMSである.成層圏オゾン測定を目的として1978年Nimbus7衛星に搭載された. 南極上空にオゾンホールを発見したのは有名であるが,エアロゾル観測にも貢献した.例えば,紫外線を吸収する鉱物ダストや煤粒子が多くなるほど,値が高くなるエアロゾル指標TOMS-AIの提案などである.後継センサであるOMIは2004年A-trainの一員であるAURA衛星に搭載され,TOMSより多くの大気成分をより詳細な地上分解能で計測している.
大気微量成分観測では日本の温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(いぶき)1号(2009年1月23日)/ 2号(2018年10月29日)の貢献が大きい.二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの地球全大気分布を長期にわたって取得し,脱炭素社会への指針を提供している.温暖化の最大不確定要素として同時に観測されているエアロゾルの長期データは貴重である.また、2023年の打上を目指してGOSAT-GW(温室効果ガス・水循環観測技術衛星)が環境省、国立環境研究所 (NIES) 、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) により共同開発中である。
以上では,地球観測衛星を紹介してきたが,日本が打ち上げた気象衛星HIMAWARI 8号(2014年)/ 9号(2016年)やアメリカが打ち上げた新世代のGOES衛星(GOES-16以降)は,従来の静止衛星の枠を越えた多波長観測を実現した.この多波長観測を生かして,HIMAWARIは日本を中心としたアジア太平洋域上空のエアロゾルに関する詳細かつ高頻度なデータを提供している.
以下に,世界の主たる衛星打ち上げ機関の(2022年3月現在)運用中あるいは開発中の大気観測飛翔体を簡単に紹介する.
ESA (欧州宇宙機関):
・Sentinel-5P/TROPOMI: コペルニクス(Copernicus)プログラムの一環として2017年10月13日打上.大気微量ガスとエアロゾルを観測.
・ADM-Aeolus/ALADIN: レーザードップラーライダーで,風プロファイルの観測.2018年8月22日打上.
・FORUM: 遠赤外波長を用いた地球放射収支の把握(2026年打上予定).
EUMETSAT(欧州気象衛星開発機構):
・MSG-4: ヨーロッパ第2世代静止気象衛星MSGシリーズの最終機.2015年7月15日打上.
・MTG: ヨーロッパ第3世代静止気象衛星.2022年打上予定.
・MetOp: ヨーロッパの極軌道気象衛星.2006年,2012年,2018年打上.
・MetOp-SG: ヨーロッパ第2世代極軌道気象衛星.MetOpの後継となる.2024年,2031年,2038年打上予定.
NASA(アメリカ航空宇宙局):
・OCO-3: 地球規模でのCO2 分布を測定.2019年5月4日ファルコン9ロケットでISS上のJEM-EF (きぼう船外実験プラットフォーム)に設置.
・DSCOVR: 2015年2月11日打上の地球・宇宙天気観測衛星.ラグランジュ点L1付近の太陽周回軌道をとる.ノーベル平和賞を受賞したアメリカの政治家アル・ゴアに因んでゴアサットとも.
・MAIA: 多波長(紫外〜近赤外)イメジャー.“step-and-stare”方式で大気微粒子(PM)の詳細観測・識別・健康影響の解明を目的とする.2022年打上予定.
・PACE: 2024年打上を目指す高度な地球の海と空の観測衛星.海色計と2つの偏光センサを搭載する.
NOAA(アメリカ大気海洋庁):
・GOES: 1975年10月16日打上の1号機以来続いているアメリカ合衆国の静止気象衛星.第3世代のセンサは16号機以降に搭載.
GOES-16:2016年11月19日打上.
GOES-17:2018年3月1日打上.
GOES-18:2022年3月2日打上.
・JPSS: 最新世代アメリカ極軌道非静止軌道環境衛星シリーズ.EUMETSAT/MetOpの午前観測に対し,午後観測で協働.
JPSS-1: 2017年11月18日打上.
JPSS-2: 2022年打上予定.
JPSS-3: 2027年打上予定.
JPSS-4: 2031年打上予定.
参考文献
S. Mukai, I. Sano I and M. Nakata, Improved algorithms for remote sensing-based aerosol retrieval during extreme biomass burning, Atmosphere, 12, 403, https://doi.org/10.3390/atmos12030403, 2021.
付録(太字略語詳細とHP)
ADEOS (ADvanced Earth Observing Satellite, みどり)
ADM-Aeolus/ALADIN (Atmospheric Dynamic Mission- Aeolus / Atmospheric Laser Doppler Instrument)
AERONET (AErosol RObotic NETwork, 地球規模エアロゾル地上観測網)
CNES (Le Centre National d'Etudes Spatiale, フランス国立宇宙研究センタ)
DSCOVR (Deep Space Climate Observatory)
ESA (European Space Agency, 欧州宇宙機関)
EUMETSAT (European Organisation for the Exploitation of Meteorological Satellites, 欧州気象衛星開発機構)
FORUM (Far-infrared Outgoing Radiation Understanding & Monitoring)
GCOM-C (Global Change Observation Mission - Climate, 気候変動観測衛星しきさい)
GOES (Geostationary Operational Environmental Satellite)
GOSAT (Greenhouse gases Observing SATellite, いぶき)
GOSAT-GW (Global Observing SATellite for Greenhous gases and Water cycle, 温室効果ガス・水循環観測技術衛星)
Himawari (静止気象衛星「ひまわり」)
JAXA (Japan Aerospace eXploration Agency, 宇宙航空研究開発機構)
JPSS (Joint Polar Satellite System)
MAIA (Multi-Angle Imager for Aerosols)
MetOP (Meteorological OPerational satellite)
Metop-SG (Meteorological Operational satellite - Second Generation)
MODIS (MODerate resolution Imaging Spectroradiometer)
MSG (Meteosat Second Generation)
MTG (Meteosat Third Generation)
NASA (National Aeronautics and Space Administration, アメリカ航空宇宙局)
NOAA (National Oceanic and Atmospheric Administration, アメリカ海洋大気庁)
OCO-3 (Orbiting Carbon Observatory - 3)
PACE (Plankton, Aerosol, Cloud, ocean Ecosystem)
POLDER (POLarization and Directionality of the Earth’s Reflectances)
SGLI (Second generation Global Imager, 多波長光学放射計・GLI後継センサ)
TOMS (Total Ozone Mapping Spectrometer)
TROPOMI (TROPOspheric Monitoring Instrument)
(京都情報大学院大学・向井 苑生、リール大学・日置 壮一郎)2022年3月20日 ★