氷晶核

Ice nucleus

 主な氷晶発生メカニズムは,均質核形成と不均質核形成に大きく分類できる。均質核形成には,水蒸気から直接氷粒子を生成する均質昇華核形成と,不純物を含まない水滴から氷晶を生成する均質凍結核形成が考えられる。前者は,水蒸気から不純物を含まない水滴を生成する均質凝結核形成と同様に高い過飽和度と,それに加えて低温が必要となる。理論的には,相対湿度1000 %以上, 気温-65℃以下が必要と推定される。後者は,水滴直径に若干依存するが,100 μmで-35 ℃,10 μmで37.5 ℃,1 μmで40.7 ℃と,約45 ℃までにどんなに小さな水滴も凍結する。自然の大気中では均質昇華核形成が起こる前に,均質凝結核形成が起こり,直ちに40 ℃以下で凍結する。従って,均質昇華核形成は決して起こらない。一方,均質凍結核形成は,自然の大気中でも積乱雲の上部や巻積雲のような40 ℃以下で比較的大きな上昇流を持つ雲の内部で起こり得る。


 しかし,一般的には雲の温度がこれほど下がる前に,雲粒の生成と同様に,異物質でできた核となる粒子の働きで氷晶が生成される。これが不均質核形成である。大気中に雲粒ができるときは水蒸気から水滴になる1つの道筋しかないが,氷晶の生成にはいくつかの道筋があり複雑である。氷晶を生成する手助けをする粒子を総称して氷晶核という。


 図は温度と氷過飽和度の関数として表した氷晶発生のメカニズムを示す。水平破線は氷飽和,斜め実線は水飽和,斜め破線は溶液滴の均質核形成速度の等値線を示す。氷晶核の働き方は,図に示すように4通りが考えられ,それぞれ昇華(凝結)核,凝結凍結核,接触凍結核,内部凍結核と呼ばれる。

(1)昇華核:昇華凝結によって水蒸気から直接氷へ変化するとき芯となり,氷晶を生成する手助けをする粒子。氷過飽和水蒸気密度の条件下であれば,水未飽和状態でも起こりうる。

(2)凝結凍結核:凝結核と凍結核の性質を合わせ持つ粒子で,まず水溶性の物質が水蒸気から水滴が生成されるとき凝結核として働き,次に不溶性の物質が凍結核として働き水滴を凍結させる。

(3)接触凍結核:水滴に衝突して凍結させる非吸湿性粒子。

(4)内部凍結核:比較的暖かい温度領域で水滴内に取り込まれ,その後の温度低下によって水滴を凍結させる働きをする非吸湿性粒子。

 一般的に水溶性エアロゾルは凝結核として微水滴に取り込まれた場合,溶質効果でその凍結温度を下げるので氷晶核とは見なされない。微水滴は十分成長し,溶質効果が無視できるほど水で希釈されると,-40 ℃付近まで冷却されると前出の均質凍結核形成で氷晶を生成する。-40 ℃よりも十分に気温が下がると,水未飽和の条件下でも水溶性エアロゾルが水蒸気を吸収してできた溶液滴が凍結して氷晶を生成することがある。このような氷晶核形成は比較的上昇流の弱い巻層雲中などで見られる。

 自然氷晶核の起源は土壌や火山灰などに含まれる鉱物微粒子と考えられている。人工氷晶核としては無機化合物ではヨウ化銀がよく知られており,有機化合物ではメタアルデヒドが有効である。また,一部の生物起源のバイオエアロゾルが氷晶核として働くことも知られている。鉱物粒子やヨウ化銀の結晶構造は,氷の結晶構造と類似していることが知られている。大気中の氷晶核の数濃度は時間空間的に変動する。また,高温では作用しない核も低温では作用するというように,温度によっても異なる。通常の大気中では-20 ℃で活性化する氷晶核濃度は1個/L 程度である。

参考文献・参考図書

Hoose, C., and O.Möhler, Heterogeneous ice nucleation on atmospheric aerosols: A review of results from laboratory experiments. Atmos. Chem. Phys., 12, 9817–9854, doi: https://doi.org/10.5194/acp-12-9817-2012, 2012.

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Rogers,R.R. & M.K. Yau, A Short Course in Cloud Physics, Butterworth-Heinemann, 304p, 1989.

村上正隆,第I 編 第5 章「雲と降水の物理学」, 気象ハンドブック(第3 版), 朝倉書店, 2005.

村上正隆,気象学ライブラリー 2,日本の降雪 ―雪雲の内部構造と豪雪のメカニズム―,朝倉書店,2021.


(気象研究所・村上正隆) 2022年4月15日  ★