光化学スモッグとは、自動車排ガスなどの燃焼により排出される窒素酸化物(NOx)と工場などから排出される揮発性有機化合物(VOC)ガスが太陽の紫外線で光化学反応を起こし、この時生成された光化学オキシダントや粒子が空中に停留したスモッグ状態を指す。そのため、大気環境基準である光化学オキシダント濃度が増加すれば、光化学スモッグの影響も大きくなり、ひどい場合には空がかすんで見えることもある。スモッグとは煙(smoke)と霧(fog)の合成語であり、固体または液体の粒子が大気中に浮かんでいる状態を表す。
光化学オキシダントとは、オゾン、パーオキシアセチルナイトレート、その他の光化学反応により生成される酸化性物質(中性ヨウ化カリウム溶液からヨウ素を遊離するものに限り、二酸化窒素を除く)と定義されるが、実際にはそのほとんどがオゾンである。また、この光化学反応により生成する粒子状物質のほとんどがPM2.5 の範囲に含まれていることから、光化学オキシダントとPM2.5 にも密接な関係があり、この両者の大気環境基準はともに低い達成率を示す。特に光化学スモッグの環境基準達成率は一般局(1,434局)で0.2%、自排局(393局)で0%(2020年)であり、極めて低い水準となっている。この原因の1つとして、光化学オキシダントの環境基準が1時間値で設定(年間最高値を環境基準と比較して評価)されていることがあり、近年では長期的改善傾向を評価するための指標として、8時間値の日最高値の3年平均値が用いられている。しかし、これら長期指標においても近年の光化学オキシダント濃度は横ばいとなっており、光化学オキシダントの主要成分であるオゾンがアジア大陸から長距離輸送されてきているとの報告もあることから、PM2.5 と同様に国内だけでなく、国際的な協力に基づいた発生源対策が急務と言える。
参考文献
上野広行, 秋山薫, 石井康一郎, 三好猛雄, 横田久司, 名古屋俊士, 東京都における夏季のPM2.5 及び水溶性有機炭素とオキシダント濃度との関係, 大気環境学会誌, 46, 124-130, 2011.
大原利眞, 鵜野伊津志, 黒川純一, 早崎将光, 清水厚, 2007年5月8, 9日に発生した広域的な光化学オゾン汚染, 大気環境学会誌, 43(4), 198-208, 2008.
日本エアロゾル学会 畠山史郎・三浦和彦(編著)、『みんなが知りたいPM2.5 の疑問25』、138-143、成山堂書店、2014.
畠山史郎・野口恒(著)、『もっと知りたいPM2.5 の科学』、26-27、日刊工業新聞社、2016.
(埼玉大学・関口和彦)2016年4月28日、2022年4月30日改訂 ★