エアロゾルの化学組成を連続的に分析する装置としては以下のような装置が考えられる。硫酸イオンを二酸化硫黄として検出するような、単一の組成分析装置と、質量分析計を用いて多成分を分析する装置である。
前者としては、有機物、元素状炭素、硝酸イオン、硫酸イオンをそれぞれ二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化硫黄に転換し、ガス測定装置を用いて分析する装置がある。
後者はいわゆるエアロゾル質量分析計(Aerodyne Aerosol Mass Spectrometer: AMS)に代表される装置で、エアロゾルを金属板などに捕集し、ヒーターやレーザーなどで加熱し、エアロゾルに含まれる分子をイオン化し、四重極型や飛行時間型の質量分析計で分析する装置である。レーザー加熱・イオン化型の装置は、硫酸イオンなど無機イオンだけではなく、元素状炭素、土壌成分、金属など多種の成分を分析できるがマトリックス効果などもあり、定量性には欠ける。ヒーターで加熱するタイプの装置は、硫酸イオンなどはある程度定量性はある。しかし、高温でしか蒸発しない元素状炭素、土壌成分、金属などは分析が難しく、また、金属板での捕集効率が組成によって変わるなど定量分析が難しい場合もある。
これら装置に関しては、以下のホームページに詳しい解説がある(Jimenez HP, Aerodyne HP)。また、以下の文献も参照されたい(桜井、高見 2004、竹川 2016)。また最近では、10nm以下の粒子やクラスターの分析に、Thermal Desorption Chemical Ionization Mass Spectrometer (TDCIMS)、Cluster-CIMS、Chemical Ionization Atmospheric Pressure interface Time of Flight MS (CI-APi-TOF)も開発されている(竹川 2016)。
Aerodyne Aerosol Mass Spectrometer(AMS)
AMSは質量分析計を用いてエアロゾルの化学組成を多成分同時に分析する装置である(Jayne et al. 2000, 桜井、高見 2004, Jimenez HP, Aerodyne HP)。 インレットから大気を吸引し、Aerodynamic Lens(空力学的レンズ)を用いて、ガスと粒子に分離し、粒子は粒子ビームを形成する。粒子は真空中を飛行し金属の捕集器で捕集される。捕集器はタングステンでできており通常600℃に加熱されており、この温度以下で蒸発する物質は蒸発気化する。気化した分子は70eVの電子でイオン化され、四重極型や飛行時間型の質量分析計に導入され、質量数ごとに検出される。粒子が飛行する時間を測定することにより、粒子の粒径(真空中の動力学的直径)を測定することもできる。定量には直径350nmの硝酸アンモニウムを用い、濃度とシグナルの校正をおこなう。ほかの成分は硝酸に対する相対的なイオン化効率があらかじめ測定されており、その値をもとに計算される。質量スペクトルにおいて、窒素、酸素、アルゴンなどの気体成分や、硫酸イオン、硝酸イオンなどの既知の成分のフラグメントシグナルを同定し、すべてのシグナルから、既知の成分のシグナルを差し引いた残りを有機物としている。レーザーイオン化の装置に比べると定量性に優れているが、粒子の捕集効率や、イオン化効率などに不確定性が残る。粒子の捕集効率などの課題を解決するため、Particle Trap Laser Desorption Mass Spectrometer (PT-LDMS) の開発も行われている(Takegawa et al. 2012)
AMSの模式図
参考文献・サイト
桜井 博, 高見 昭憲, 100 nm以下の大気エアロゾル粒子のオンライン化学組成分析技術, エアロゾル研究, 19, 14-20., 2004.
竹川暢之, エアロゾル粒子およびクラスター化学組成のオンライン質量分析 大気化学研究 34号 3-7, 2016.
Jimenez HP:http://cires1.colorado.edu/jimenez/ams.html
Aerodyne HP: http://www.aerodyne.com/products/aerosol-mass-spectrometers
Jayne, J. T., D. C. Leard, X. F.Zhang,, P. Davidovits, K. A.Smith, C. E. Kolb, and D. R. Worsnop, Development of an aerosol mass spectrometer for size and composition analysis of submicron particles, Aerosol Sci. Technol., 33, 49-70., 2000.
Takegawa, N., T. Miyakawa, T. Nakamura, Y. Sameshima, M. Takei, Y. Kondo, and N. Hirayama, Evaluation of a new particle trap in a laser desorption mass spectrometer for online measurement of aerosol composition, Aerosol Sci. Technol., 46, 428-443, 2012.
(国立環境研究所 高見昭憲) 2016年4月20日 ★