両極拡散荷電

Bipolar diffusion charging

(気相中におけるイオンの発生)

エアロゾル粒子は、電離放射線(α線、β線)や放電により生成されるイオンにより荷電される。この気相中で電離生成されたイオンは正または負の単位電荷をもつ数個の気体分子よりなるクラスターである。このため荷電により粒子が獲得する帯電量を左右するイオンの動力学的物性は気体の組成およびイオンの電気極性により異なる。

(荷電機構)

この荷電現象は、(1)拡散荷電と(2)電界荷電(衝突荷電とも呼ばれる)の2つの荷電機構により行われる。前者はイオンとエアロゾル粒子が互いの熱運動により衝突して電荷を粒子に与える。外部電場がない場合、あるいは、外部電場が存在しても粒径が0.2 μm以下の場合に主な機構となる。後者は粒子が外部電場に存在すると、粒子周りの電界にゆがみが生じ、粒子に向かう電気力線が形成される。電界荷電はこの電気力線に乗ってイオンが粒子に向かって移動し、衝突することで電荷を与える。外部電場が存在し、かつ、粒径が2 μmより大きいときに働く機構である。

(両極荷電)

正電荷をもつイオンと負電荷をもつイオン1対1で混在するイオン(両極イオンと呼ぶ)による荷電を両極拡散荷電と呼ぶ。(これに対し、正負どちらかのイオン(単極イオン)のみによる荷電は単極荷電と呼ばれる。)

 この両極荷電過程は両極イオン濃度がエアロゾル粒子濃度に比べ十分高いとき、一般的に、次の出生死滅方程式で表される。(文献1)

ここで、nは粒子の個数濃度を、Nはイオン個数濃度を、βはイオンと粒子の結合係数(単位時間単位体積における衝突確立)を表し、下付き添え字の0は粒子が電荷を持たないことを、pp電荷(電荷の極性を含む)を持つことを表す。また、上付き添え字の+はイオンが正の電荷を持つことを、-は負の電荷を持つことを表す。イオンと粒子の結合係数βsp(sはイオンの電気極性)は、クヌッセン数Kn)により、拡散荷電の機構が異なるため複雑となるが、次に示すFuchsの式(文献2)は全Kn領域で使用することができる。

ここで、φはイオンと粒子の間に働く静電ポテンシャル、kはボルツマン定数、Ci, Diはイオンの平均熱運動速度と拡散係数、λはイオンの平均自由行程より求められる仮想球半径、ξは静電気力を考慮したイオンの自由分子運動に基づく補正係数である。

 式(1)は無帯電粒子の濃度の時間変化を表し、式(2)はp電荷を持つ粒子の濃度変化を表す。式(2)の右辺第一項と三項はp+1電荷を持つ粒子と負イオンが衝突してp帯電粒子に、p-1帯電粒子と正イオンが衝突してp帯電粒子になる生成項であり、第二項と四項はp帯電粒子に負イオンおよび正イオンが衝突してp帯電粒子ではなくなる消滅項である。

両極イオン濃度Nと荷電時間tの積がNt >1013 sm-3のときに、粒子は正負イオンとの衝突を繰り返しながら、粒子群全体として、ある安定した帯電状態(式(1)と(2)の左辺をゼロとしたときに求められる濃度分布)に達する。この帯電状態は平衡帯電量分布と呼ばれ、この分布では系全体が電気的にほぼ中性であるため、静電気力による粒子間の凝集も拡散も起こらない。このため、両極拡散荷電はエアロゾル粒子の電荷の中和を目的として行われることが多い(文献3)。


参考文献

1:M. Adachi, Y. Kousaka and K. Okuyama, Unipolar and bipolar diffusion charging of ultrafine aerosol particles, J. Aerosol Sci., 16 109-123, 1985.

2: N. A. Fuchs, On the stationary charge distribution on aerosol particles in a bipolar ionic atmosphere, Geofis.Pura Appl., 56, 185-193, 1963.

3: 足立元明粉体工学の基礎(粉体工学の基礎編集委員会編)86-93、日刊工業新聞社、1992.


(大阪府立大学・足立 元明) 2016年4月21日  ★