過去長い間、断熱材などとして利用されてきたアスベスト(石綿)の呼吸器障害性が明らかとなり、その代替物質として様々な人造鉱物繊維が開発されてきた。これらには、SiO2を基本組成としており、その構造は基本的には非晶質である。これらは、その開発されてきた経緯から、アスベストより有害性の低いものである必要がある。しかし、繊維状(径と長さの比が3以上)であることとアスベストと同じような機能(耐熱性、耐摩耗性、断熱性)を持つ必要もあることから、ヒトに対する有害性についての懸念から多くの研究がなされてきた。
実験動物を用いた吸入曝露試験および気管内注入試験では、20ミクロンより長い繊維の肺内滞留性が高いほど、腫瘍や線維化を引き起こすことが認められている。また、その肺内滞留性と溶解性(化学組成)は相関しており、アルカリおよびアルカリ土類金属酸化物の含有率が高い非晶質の繊維は、生体内で溶解しやすく、肺からの排泄が速く、有害性が低いという動物実験結果が示されている1)。このようなことから、代替繊維状物質の開発には、径を太くし肺胞まで到達しにくいようにすることや、肺から迅速に排泄されるように溶けやすい組成にする努力がなされている。
国際がん研究機関(IARC)が定める発がん分類では、ガラス微細繊維やリフラクトリーセラミックファイバー(RCF)はグループ「2B」“ヒトに対する発がんの可能性がある”に分類されており、グラスウール、ロックウール、スラグウールなどはグループ「3」“発がん性が分類できない”としている2)。日本産業衛生学会は、これらと同様の評価をし、セラミック繊維、ガラス微細繊維については、発がん性分類を「第2群B」“証拠が比較的十分でないが、おそらく発がん性がある物質”とし、許容濃度は定められていない。その他の人造鉱物繊維であるガラス長繊維、グラスウール、ロックウール、スラグウールについては、発がん物質「第3群」とし、許容濃度を1繊維/mLとしている。
しかし、IARCで発がん分類2B であり、1000℃以上で発がん物質の結晶質シリカであるクリストバライトになるリフラクトリーセラミックファイバー(シリカとアルミナを主成分とした非晶質の人造鉱物繊維)は、平成27年11月に、特定化学物質の管理第2類に指定され、特別管理物質となった。作業現場では、発散抑制措置や健康診断が義務化され、管理濃度は0.3繊維/mL(平成28年11月から)で作業環境測定とその記録、作業記録および健康診断結果を30年保存する必要がある3)4)5)6)。これらの繊維の測定は、アスベストの測定と同様に位相差顕微鏡を用いて採取試料中の繊維数を計数する。
このように、すべてのアスベスト代替繊維の人造鉱物繊維が全く無害というわけではなく、サイズや化学組成などによっても有害性は異なる。これらのSiO2を主成分とした非晶質の人造鉱物繊維以外にも、結晶質のアルミナ繊維やウィスカと呼ばれる繊維等も製造されており、これらの新規に開発された代替繊維の使用前の充分な安全性確認が必要と考えられる。
発がん性分類や管理濃度や許容基準は見直されることもあるので、毎年最新版を確認されたい。
1) Hesterberg TW and Hart GA: Synthetic Vitreous Fibers: A review of toxicology research and its impact on hazard classification, Critical Reviews in Toxicology, 311(1): 1-53, 2001.
2) IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans Volume 81, 2002.
3) 厚生労働省:リフラクトリーセラミックファイバーのリスク評価書、2014.
4) 厚生労働省:労働安全衛生法の改正通達、2015.
5) 厚生労働省:特定化学物質障害予防規則の改正通達、2015.
6) 厚生労働省:労働安全衛生法、特定化学物質障害予防規則の改正パンフレット、2015.
(産業医科大学 産業生態科学研究所 大藪 貴子)2022年3月20日 ★