聞こえない音(超音波)とは、一般に可聴音(20 Hz~20 kHz)を超える音波もしくは弾性振動と定義され、さまざまな分野に応用されている。身近なところでは、眼鏡などの洗浄機、センサーやソナー、病院の画像診断、切断や溶接、加湿器などが挙げられる。超音波領域の周波数において、顕著な物理作用を期待できるのは20 kHz~100 kHzであり、診断等のイメージングにおいては、5 MHz~10 MHz程度が用いられる。この間の100 kHz~5 MHzでは、効果的な周波数を選択することにより、反応活性なラジカルの生成や液体のミスト化(超音波霧化)といった特殊な効果を発現することができる。
超音波霧化は、数十nmと数m程度の分散性の高い二峰性の霧を少ないエネルギーで断続的に発生できる手法であり、液相から気相への物質移動も蒸留に比べ低い消費エネルギーであることが報告されている。その発生機構は、キャビテーション(疎密波による微細気泡の生成と崩壊)に伴う衝撃波説と、液体表面に形成されるキャピラリー波(表面波)説とがあるが明確には定まっていない。用いられる周波数や超音波の強度によってこれらキャビテーションとキャピラリー波の寄与は大きく変化し、高周波の超音波を用いる際にはキャビテーションの作用が抑制され、キャピラリー波の寄与が大きくなる。近年では、超音波霧化により発生させたミスト表面を反応場として、空気浄化技術に応用しようとの試みもある。
参考文献
・Sato, M., Matsuura, K. and Fujii, T., Ethanol separation from ethanol-water solution by ultrasonic atomization and its proposed mechanism based on parametric decay instability of capillary wave, J. Chem. Phys., 114, 2382-2386, 2001.
・Boguslavskii, Y.Y., Eknadiosyants, O.K., Physical mechanism of the acoustic atomization of a liquid, Sov. Phys. Acoust., 15, 14-21, 1969.
・Kudo, T., Sekiguchi, K., Sankoda, K., Namiki, N. and Nii, S.: Effect of ultrasonic frequency on size distributions of nanosized mist generated by ultrasonic atomization, Ultrason. Sonochem., 37, 16-22, 2017.
・関口和彦, 超音波ミストの粒径分布測定と空気浄化手法への応用, 超音波TECHNO, 29(6), pp. 5-10, 2017.
(埼玉大学・関口和彦)2016年4月28日、2022年4月30日微修正 ★