流体抵抗力
Drag force
粒子が媒質気体分子の平均自由行程よりもかなり大きな場合には,粒子の運動は慣性力が支配的になり,拡散の影響は無視できるほど小さいと考えられる。そのような場合には,粒子と流体との相対速度をUrとすると抵抗力はニュートンの抵抗則として
と表すことができる。ここで,Apは投影面積,ρfは流体密度,CDは抵抗係数である。粒子が球形である場合はAp=πDp2/4なので,抵抗力は
となる。乱流領域(Rep> 500)では慣性項が流れを支配するため,抵抗係数CDは定数となるが,Repが小さくなり粘性項が流れに影響を及ぼしてくると,抵抗係数CDは流れの関数になってくる。
Rep<0.1のような層流域ではストークスの抵抗則が成り立つことが知られており,
と表され,式(2)と式(3)を組み合わせることで抵抗係数CDは
と求めることができる。しかし,粒子と流体の相対速度が増してRepが大きくなってくるとストークス近似からのずれが生じ(慣性項が無視できなくなり),上式には従わなくなってくる。そこで,以下の修正を加えることで,実験結果と一致させている。
ここで,Rep < 0.1の範囲をストークス域,2 < Rep < 500が遷移域またはアレン域,500 < Rep < 2×105を乱流域またはニュートン域(ほぼ慣性項が支配的な領域)と呼ぶ。図に抵抗係数CDとReの関係を両対数グラフに示した。
粒子が小さくなり気体分子の平均自由行程に近くなると,気体は連続的な流体とは見なせなくなり,粒子表面での流体の速度は分子運動のため0(ゼロ)とはならず,いわゆる流体のすべりが生じる。このため,粒子が受ける流体抵抗力は,気体を連続的な流体と仮定した前述の抵抗則から予想される抵抗力よりも小さくなる。このため,常温,常圧では粒子径が1μm近傍からそれ以下の場合には,抵抗係数を補正する必要がある。(「カニンガムの補正係数」の項目を参照)
参考文献
日本エアロゾル学会(編)『エアロゾル用語集』、気体と微粒子の相互作用、40-41、京都大学学術出版会、2004.
W. C. ハインズ(早川一也 監訳)、エアロゾルテクノロジー、41-45、井上書院、1985.
日本エアロゾル学会(編)・高橋 幹二 (著)、エアロゾル学の基礎、13-16、森北出版、2003.
高橋幹二著、基礎エアロゾル工学、13-16、養賢堂、1978.
S.F. Friedlander, Smoke, Dust, and Haze: Fundamentals of Aerosol Dynamics 2nd, Oxford University Press, 2000.
W. C. Hinds, Aerosol Technology: Properties, Behavior, and Measurement of Airborne Particles 2nd, 42-46,Wiley-Interscience, 1999.
J. H. Seinfeld, S. N. Pandis, Atmospheric Chemistry and Physics: From Air Pollution to Climate Change 3rd, 459-468,Wiley, 2016.
(群馬大学・原野 安土) ★