潮解と風解

deliquescence & efflorescence

 物質が空気中の水分(水蒸気)を吸収して溶けていくこと(水溶液になっていくこと)を潮解(deliquescence)といい,逆に水和物結晶(結晶の中に水を含んでいる)の水分が蒸発して無水物になっていくことを風解(efflorescence)という。

相対湿度の増加に伴う吸湿性エアロゾル粒子の成長は,水分子の気相から粒子相への輸送によるものであるが,それは相対湿度の連続的な関数ではない。硝酸ナトリウム(NaNO3)粒子の例を図に示す。吸湿性エアロゾル粒子はある相対湿度(潮解点)で急激に粒径が増加し固相から液相に変化し,それ以降は相対湿度の上昇とともに溶液滴は溶質効果により水蒸気を吸収し成長する。しかし,潮解点より低い相対湿度では水分子は硝酸ナトリウム結晶表面に物理吸着するが水の量が十分ではないため結晶格子を壊し溶解するまでにはいたらない。エアロゾル粒子が潮解点付近で経験する粒径変化は,相対湿度が増加する場合と減少する場合で異なり,結果的にヒステリシスを生じることになる。相対湿度が減少する場合には,潮解点で直ぐに結晶化は起こらず,しばらく溶質濃度が増大し過飽和状態が続くが,ある時点で溶質濃度が臨界過飽和度に達し,固相の核形成(析出)が起こり,硝酸ナトリウムの乾燥粒子が生成される。核形成の確率的性質から,風解点は相対湿度にある幅を持つ。大気中に存在する代表的な凝結核である海塩粒子(NaCl),硫酸アンモニウム粒子((NH)SO)は,それぞれ相対湿度約76%,80%で潮解を始める。

参考図書

Lamb, D., & J. Verlinde, Physics and Chemistry of Clouds, Cambridge University Press, 584p, 2011


(気象研究所・村上正隆) 2016年7月5日   ★