個々のエアロゾル粒子の水溶性/非水溶性物質の混合状態を、水溶性物質の溶出させた前後の試料の顕微鏡観察により調べる手法である。大気エアロゾル粒子は種々の水溶性・非水溶性物質で構成されており、主な非水溶性物質としてはススやタールボール、ケイ酸塩鉱物などがあげられる。このような粒子のエイジングや光学特性、雲形成能力を評価する上で、水溶性物質との共存状態は重要な観点であり、その評価法の一つとして水透析法が用いられてきた。
水透析法は、電子顕微鏡観察での試料支持膜に用いられるコロジオン膜が半透膜であることを利用し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行われてきた(Mossop, 1963; Okada, 1983; Hasegawa, et al., 2002; Ueda et al., 2011など)。TEMによる透析法の詳細は、岡田(2004)に記されている。まず、エアロゾル粒子を炭素補強したコロジオン膜を張った電子顕微鏡グリッドに採取する。あらかじめTEMで観察した電子顕微鏡グリッドについて、粒子が存在している面を上にして蒸留水の水面に置く。粒子に含まれる水溶性物質はコロジオン膜を通過して蒸留水側に移動し、粒子から除去される。水面から取り出し、ろ紙上で乾燥させた後、水透析前と同一視野の電子顕微鏡写真を撮影し、比較することにより、個々の粒子における水溶性物質と非水溶性物質の混合状態を観察することができる。また、透析前後において、粒子に白金-パラジウムを用いたシャドーイング(斜めからの蒸着)を施すことで、粒子面積と影の長さから水透析前後の粒子体積の変化を評価することができる。
近年では、物体の高さ分布を計測できる共焦点レーザー顕微鏡を用いた手法と水透析法を組み合わせた手法が開発され、ダスト粒子など粗大粒子中の水溶性物質の体積割合が測定されている(長田ら, 2011)。この手法では、粒子の捕集面に粒子より十分小さい孔を有するニュクリポアフィルタを用いる。共焦点レーザー顕微鏡による粒子体積の測定は、マイクロメートルサイズの粒子に限られるが、TEMとシャドーイング処理を用いた手法と異なり、粒子の形を仮定する必要がない点で現実に近い粒子体積が求められることが期待できる。
図1 電子顕微鏡観察用試料の水透析の模式図
図2 水透析前後の透過型電子顕微鏡写真
参考文献
Mossop, S. C., Stratospheric particles at20km, Nature, 199, 325-326, 1963.
Okada, K., Nature of individual hygroscopicparticles in the urban atmosphere, J.Meteor. Soc. Jpn., 61, 727-736, 1983.
Hasegawa, S., and S. Ohta, Somemeasurements of the mixing state of soot‐containing particlesat urban and non‐urban sites, Atmos. Environ., 36,3899–3908, 2002.
Ueda, S., Osada, K. and Takami, A.:Morphological features of soot-containing particles internally mixed withwater-soluble materials in continental outflow observed at Cape Hedo, Okinawa,Japan, J. Geophys. Res., 116, 2011.
岡田菊夫, 電子顕微鏡による大気エアロゾル粒子の組成と混合状態の分析法について, エアロゾル研究, 19, (1), 21-27, 2004.
長田和雄, 川北康介, 上田紗也子, 水野祐貴, テストダスト粒子に含まれる水溶性物質の体積割合, エアロゾル研究, 26, 147-151, 2011.
(名古屋大学・上田紗也子) 2016年3月28日 ★