PMF(Positive Matrix Factorization)解析は近年よく用いられているレセプターモデルで、CMB(Chemical Mass Balance)解析とは異なり発生源を特徴付ける元素や化合物を含む化学組成データ(発生源プロファイルと呼ばれる)を必要としないが、環境中のエアロゾル粒子について元素や化合物の濃度(環境データと呼ばれる)を時系列で複数個、必要とする。
PMF解析では、環境データをいくつかの因子に分解する手法により、時系列で採取したエアロゾル粒子に対する各因子の寄与濃度を推定することができ、同時に因子プロファイルを推定することができる。因子が発生源を表す場合は、発生源寄与濃度や発生源プロファイルが推定されるが、因子は発生源を表すとは限らず、類似した変動を示すことによりグループ化されている場合もある。環境データの成分濃度は、次式に示す因子寄与と因子プロファイルに分解される。
ここで、 xij は環境データの試料i 中の成分j の濃度、 gikは因子k の試料i への寄与、 fkj は因子k のプロファイルにおける成分j の濃度、eij は試料i 中の成分j の実測値とモデル化された計算値の残差を示す。次式のQを最小にするf およびg を求める。f およびg は負の値にならないように制約を受ける。
PMF解析には、比較的長期間または高時間分解の環境データが必要である。分解された因子プロファイルの指標成分を手掛かりにして、各因子の起源を推定する。米国EPAではPMF解析の解説文書(Hopke, 2001)を提供している。
PMF解析による発生源寄与割合の推定結果例を示す。これはパリ(フランス)におけるPM2.5 の発生源寄与割合を推計したものである(Bressi et al., 2014)。発生源として硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、重油燃焼、道路交通、バイオマス燃焼、海洋エアロゾル、金属工業の7つの因子についての寄与割合が見積もられている。
パリ(フランス)におけるPM2.5 の発生源寄与割合をPMF解析により推定した結果(Bressi et al., 2014のデータを元に作成)。
引用文献
Bressi, M., et al.: Sources and geographical origins of fine aerosols in Paris (France). Atmospheric Chemistry and Physics, 14, 8813-8839, 2014
Hopke, P. K., A guide to Positive Matrix Factorization, in "Air Pollutant Receptor Modeling", 2001.
参考文献
Paatero, P. and Tapper, U : Positive matrix factorization: A non-negative factor model with optimal utilization of error estimates of data values. Environmetrics, 5, 111-126, 1994
Paatero, P.: Least squares formulation of robust non-negative factor analysis, Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 37, 23-35, 1997
飯島明宏, 入門講座 大気モデル-第5講 レセプターモデル-, 大気環境学会誌, 46, A53-A60, 2011.
(名古屋市環境科学調査センター・山神真紀子) 2022年4月13日 ★