正電荷をもつイオンと負電荷をもつイオンが1対1で混在するイオン(両極イオンと呼ぶ)による荷電を両極荷電と呼ぶ。(これに対し、正負どちらかのイオン(単極イオン)のみによる荷電は単極荷電と呼ばれる。)
両極イオン濃度がエアロゾル粒子濃度に比べ十分高く、かつ、両極イオン濃度Nと荷電時間tの積がNt >1013 sm-3のときに、粒子は正負イオンとの衝突を繰り返しながら、粒子群全体として、ある安定した帯電状態に達する。この帯電状態は平衡帯電量分布と呼ばれ、この分布では系全体が電気的にほぼ中性であるため、静電気力による粒子間の凝集も拡散も起こらない。このため、両極拡散荷電はエアロゾル粒子の電荷の中和を目的として行われることが多い。
平衡帯電量分布は単分散粒子を仮定すると理論的に次式で表される(文献1)。
ここで、pは粒子が持つ電荷数、npはp帯電粒子の個数濃度、nTは全粒子個数濃度、β+pは正イオンとp帯電粒子の結合係数、β-pは負イオンとp帯電粒子の結合係数である。
イオンと粒子の結合係数βsp(sはイオンの電気極性)は、クヌーセン数(Kn)により、拡散荷電の機構が異なるため複雑となるが、次に示すFuchsの式(文献2)は全Kn領域で使用することができる。
ここで、φはイオンと粒子の間に働く静電ポテンシャル、kはボルツマン定数、Ci, Diはイオンの平均熱運動速度と拡散係数、λはイオンの平均自由行程より求められる仮想球半径、ξは静電気力を考慮したイオンの自由分子運動に基づく補正係数である。
図1 Fuchs理論に基づき正負イオン物性の違いを考慮して求めた平衡帯電量分布(実線)とボルツマン分布(点線)と実験結果の比較 (文献3)
図1は式(1)~(4)を用いて求めた平衡帯電量分布(実線)とボルツマン分布、Adachiらの実験結果を示す(文献3)。実験結果は、Fuchsの結合係数を用いた帯電量分布と良く一致していることがわかる。また、ボルツマン分布は粒径1 μm以下で実験結果とは大きく異なるほか正イオンと負イオンの動力学物性の影響が考慮されておらないため粒径1 μm以上でも適応できないことがわかる。
文献1:足立元明、粉体工学の基礎(粉体工学の基礎編集委員会編)pp. 86-93、日刊工業新聞社、1992 .
文献2: Fuchs, N. A., On the stationary charge distribution on aerosol particles in a bipolar ionic atmosphere. Geofisica pura e applicata, 56(1), 185-193, 1963.
文献3:M. Adachi, Y. Kousaka and K. Okuyama, Unipolar and bipolar diffusion charging of ultrafine aerosol particles, J. Aerosol Sci., 16 109-123, 1985.
(大阪府立大学・足立 元明) 2016年4月21日 ★