タイヤ摩耗粒子
Tyre Wear Particles(英) / Tire Wear Particles(米)
Tyre Wear Particles(英) / Tire Wear Particles(米)
ここでは,自動車由来のタイヤ摩耗粒子について解説する.タイヤ摩耗粒子とは,路面に接するタイヤのトレッドが摩擦や摩耗することにより生成し,大気へ放出される主に粒径10 μm以下の粒子状物質のことをいう.タイヤにかかる荷重および横力(横方向にかかる加速度)により,タイヤ摩耗粒子の発生量が変化する.
図:タイヤ断面図
写真:室内タイヤ試験機で発生した自動車由来のタイヤ粉塵粒子を含む粒子を直径47 mmのペトリスライド容器に回収したときの様子
写真:室内タイヤ試験機で発生した自動車由来のタイヤ粉塵粒子を含む粒子を電子顕微鏡で観察した一例
[タイヤの種類]
グリップ重視のスポーツタイヤ,静粛性を重視したコンフォートタイヤ,燃費重視のエコタイヤなど,様々な性能に合わせて設計されている.また,電気自動車向けには,バッテリーにより車重量が大きくなり摩耗が増える傾向に対応するため,耐偏摩耗性を向上させた電気自動車用の低燃費タイヤなどもある.
[化学組成]
タイヤ摩耗粒子に関連するタイヤトレッドは,タイヤコンパウンドといわれるゴム質で作られている.主な成分はゴムであり,天然ゴムや合成ゴムが使われる.これらのゴムに補強材(カーボンブラックやナノ非結晶シリカ),ゴムに強度や弾性を与える硫黄,ゴムを柔らかくするオイル,酸化防止剤,加硫促進剤(ステアリン酸や酸化亜鉛)などが配合される.国や地域に応じて配合する材料や量を調整するため,各国やタイヤの製造業者などによって配分量は大きく異なる[1] [2].
[粒径分布]
一般環境においては,タイヤ摩耗粉塵には,タイヤと路面の両方の粒子を含むため,これらを識別することは難しい.路上で得られるタイヤ摩耗粒子は,長細い形状の粒子であり,粒子径が4 ~ 280 μm、モード径が50 μmである [3].
個数基準でみると,粒径0.1 μm以下の粒子に対して,モード径0.02 ~ 0.05 μm,粒径1 μm以上の粒子に対して,粒径2 ~ 10 μmをモード径とした分布が観測されることがある [4].
[参考文献]
[1] 利根川 義男:— 入門講座. 自動車の排出ガス・粉じんと大気環境. ―第8講 自動車から排出されるタイヤ摩耗粉じん―, 大気環境学会誌, 55, A75–A83, 2020.
[2] 経済産業省:ナノ物質の管理に関する検討会,自動車タイヤ中のナノ粒子のリスクに関わるケーススタディ, 2013.
[3] Kreider, M., Panko, J., McAtee, B., Sweet, L., Finley, B.: Physical and chemical characterization of tire-related particles: Comparison of particles generated using different methodologies, Science Total Environment, 408, 652‒ 659, 2010.
[4] Gustafsson M, Blomqvist G, Gudmundsson A, Dahl A, Swietlicki E, Bohgard, M, Lindbom J, Ljungman A.: Properties and toxicological effects of particles from the interaction between tyres, road pavement and winter traction material, Science of The Total Environment, 393, 226-240, 2008.
一般財団法人日本自動車研究所・萩野 浩之 (2022年4月1日) ★