黄砂

Asian dust

黄砂とは、東アジア乾燥地域の表層土が強風によって巻き上げられ、大気中を浮遊・降下している状態を指す。黄砂現象時に浮遊・降下している粒子そのものを指すこともある。用語としては紛らわしいので、現象としては黄砂現象、粒子としては黄砂粒子と区別して用いるとよい。

黄砂現象は、東アジアの砂漠域(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)や黄土地帯から強風により大気中に舞い上がった黄砂粒子が浮遊しつつ降下する現象である。気象台では、黄砂粒子による視程の低下(10 km程度以下)を、観測者が目視で確認し、黄砂として記録している。日本では春季(3~5月)に出現頻度が高く、秋~冬にもまれに観測されることがある(気象庁HP荒生ら、2003)。日本で黄砂が観測されやすいのは西日本を中心とする地域で、沖縄から北海道にかけて全国的な範囲に影響を一度におよぼす黄砂現象はまれである。 

気象庁により報告された全国の黄砂観測日を、月毎に平均した値(2004年~2014年)。データは気象庁HPから。 

東アジア乾燥地域から日本まで、黄砂が輸送されてくる速さは気象条件により異なるが、概ね2日弱~3日程度である。黄砂が輸送される高度を測定した例としては地上からのライダーを用いたIwasakaら(1983)、人工衛星に搭載したライダーを用いて上空から黄砂の輸送状況を丹念に追いかけた例としてUnoら (2009)やSu and Toon (2011)がある。

発生源地域における砂塵嵐発生時のエアロゾル濃度としては10 mg/m3を越え、北京では砂塵現象時に500 µg/m3、日本における黄砂現象時には、100 µg/m3前後の例が多い。黄砂時の質量粒径分布としては、北京では空気力学径(直径)で5~7 µm、日本では3~5 µmに最頻値を持ち(Moriら、2003)、10 µmを越える粒子も飛来する。日本への黄砂粒子の沈着量は西日本で多く、年間に10 g/m2程度である(Osadaら, 2014)。

黄砂粒子を構成する主な元素としては、AlやSi、Feなど、地殻を構成する成分が多く、鉱物としては石英や長石のほか、イライト、緑泥石、カオリナイトなどの粘土鉱物、石膏、方解石(炭酸カルシウム)も報告されている(石坂ら、1981)。黄砂粒子中の炭酸カルシウムと、大気中の硝酸ガスや亜硫酸ガスなどと反応することで、もとはガス状だった大気汚染物質が黄砂粒子とともに輸送される場合もある。

黄砂粒子は非球形であり、アスペクト比は1.2~1.4程度、円形度は0.86~0.93程度である(Okada et al., 2001; Li and Osada, 2007)。

黄砂粒子とサハラダスト粒子の物理的・化学的な特徴を比較したレビュー論文としてはFormenti et al. (2011)が良くまとまっている。日本国内で観測された典型的な黄砂粒子の化学組成については西川ら(2016)が詳しい。また、黄砂の発生源地域における砂塵粒子についても西川ら(2018)がまとめている。気候への影響や健康影響、バイオエアロゾルのキャリアや化学反応場としての重要性など、黄砂が関わる多様なプロセスについては「エアロゾル研究」35巻1号(2020)の特集記事(黄砂が関わる多様なプロセス・影響)に詳しい。


引用文献】

荒生公雄; 伊東和博; 古謝愛. 長崎地方における 1914 年から 2001 年までの黄砂現象の経年変化. 長崎大学総合環境研究, 5, 1-10, 2003.

石坂隆、小野晃、角脇怜、日本上空に飛来した砂塵の性状とその発源地、天気、28巻、651-665、1981.

Iwasaka, Y., H. Minoura, K. Nagaya, The transport and spacial scale of Asian dust-storm clouds: a case study of the dust-storm event of April 1979, Tellus, 35B, 189-196, 1983.

Formenti, P., Schütz, L., Balkanski, Y., Desboeufs, K., Ebert, M., Kandler, K., Petzold, A., Scheuvens, D., Weinbruch, S., and Zhang, D.: Recent progress in understanding physical and chemical properties of African and Asian mineral dust, Atmos. Chem. Phys., 11, 8231-8256, doi:10.5194/acp-11-8231-2011, 2011.

Li J. & K. Osada, Water-insoluble particles in spring snow at Mt. Tateyama, Japan: Characteristics of the shape factors and size distribution in relation with their origin and transportation, J. Meteorol. Soc. Jpn., 85, 137-149, 2007.

Mori, Ikuko, et al. Change in size distribution and chemical composition of kosa (Asian dust) aerosol during long-range transport. Atmospheric Environment, 2003, 37.30: 4253-4263.

西川雅高, 早崎将光, 森育子, 大西薫, 清水厚, 日下部正和, 日本で捕集した典型的な黄砂エアロゾルの化学組成, 大気環境学会誌, 51 巻,   218-229, 2016.

西川雅高, 久我典克, 全浩, 小柳秀明, 大西薫, 宇加地幸, 永野公代, 森育子, 佐野友春, 砂塵ダスト発生地域における表層土壌の色彩および化学組成的特徴と日本に飛来した黄砂エアロゾルの発生源地域の推定, 大気環境学会誌, 53巻, 165-185, 2018.

Okada, K., J. Heintzenberg, K. Kai and Y. Qin, 2001: Shape of atmospheric mineral particles collected in three Chinese arid-regions. Geophys. Res. Lett., 28, 3123-3126.

Osada, K., et al., Wet and dry deposition of mineral dust particles in Japan: factors related to temporal variation and spatial distribution, Atmos. Chem. Phys., 14, 1107-1121, doi:10.5194/acp-14-1107-2014, 2014.

Su, L. and Toon, O. B., Saharan and Asian dust: similarities and differences determined by CALIPSO, AERONET, and a coupled climate-aerosol microphysical model, Atmos. Chem. Phys., 11, 3263-3280, doi:10.5194/acp-11-3263-2011,  2011.

Uno, I. et al., Asian dust transported one full circuit around the globe,  Nature Geoscience, 2, 557-560, 2009.


【参考図書】

日本エアロゾル学会(編)、黄砂、土壌、鉱物エアロゾル、エアロゾル用語集、156-157、京都大学学術出版会、2004.

名古屋大学水圏科学研究所(編)、『大気水圏の科学 黄砂』、古今書院、1991. (黄砂情報が満載の専門書 その1)

岩坂泰信・西川雅高・山田丸・洪天祥(編)、『黄砂』、古今書院、2009 黄砂情報が満載の専門書 その2)

鳥取大学乾燥地研究センター(監修)、『黄砂 健康・生活環境への影響と対策』、丸善出版、2016.(モンゴルや中国の黄砂発生源地域の様子から、日本への影響も含めて幅広く網羅された入門書)


【関連サイト

黄砂(Dust and sandstorm:DSS) 環境省

黄砂に関する基礎知識 気象庁

黄砂情報(実況図) 気象庁



(名古屋大学・長田和雄)  2022年4月7日更新 ★