成層圏エアロゾル
地球大気中で蓄積モードを形成する粒径0.1~1 µmのエアロゾルの定常的な高濃度域が、対流圏のうちの高度約2 kmまでの境界層と高度約12~30 kmの成層圏下部にみられる。成層圏下部のエアロゾル層は水平方向に一様に広がり、地球全体を連続的に覆っている。主要な成分は、硫酸水溶液で、若干の鉱物質成分などを含む。硫酸水溶液の組成比は、沸点の直接的な計測より硫酸が約75 %wtと見積もられている。
硫酸の起源:硫酸の起源は、地球表面から生物活動を中心として発生する硫化カルボニル(OCS)および火山活動起源の二酸化硫黄(SO2)である。硫化カルボニルは、水に溶解しにくく、対流圏では光化学的にも安定なため、分解、除去されずに対流圏を拡散し、主に熱帯圏界面を通って成層圏に運ばれる。成層圏では紫外線により分解され、最終的に硫酸にまで酸化される。一方、二酸化硫黄は、対流圏で降水などによって除去されやすく定常的な成層圏への流入は少ない。圏界面を超える比較的規模の大きい火山噴火により成層圏に直接注入されることで、成層圏エアロゾルの硫酸の起源物質となる。
大規模な火山噴火の影響:大規模な火山噴火によって成層圏に運び込まれた硫黄酸化物や火山灰は、地球全体に拡散し、最終的に対流圏に輸送され、降水によって除去される。成層圏エアロゾルの滞留時間は、約2年と考えられている。極域では、除去された硫酸や鉱物粒子が積雪中に保存されることがあり、氷床コアの解析により過去の火山噴火の記録の復元などもされている。
宇宙起源物質:地球には、宇宙空間から絶えず宇宙塵が流入してきている。中間圏に流入した宇宙塵は、地球の重力により、大気を通して固体地球表面に除去される。大気中では、成層圏における滞留時間が最も長いと考えられる。
対流圏エアロゾル
対流圏におけるエアロゾルの高濃度域は、大気境界層にあたる高度1~3kmにみられる。ここで観測されるエアロゾルの成分は、起源の多様性を反映して多様である。自然発生源のエアロゾルの成分としては、海塩、海洋微生物起源の硫化ジメチルから生成する硫酸イオン、火山起源の硫酸イオン、砂漠起源の鉱物、生物起源の有機成分などがみられる。人為起源のエアロゾル成分としては、化石燃料燃焼による硫酸イオン、硝酸イオン、すす、農業や工業活動に伴うアンモニウムイオンなどがみられる。
自由対流圏のエアロゾル濃度は、比較的低いが、大気擾乱により地表付近を発生源とするエアロゾルが自由対流圏に輸送されることがある。このようなエアロゾルの典型的なものは、乾燥地域からもたらされる鉱物粒子で、アフリカのサハラダスト、アジアの黄砂などが知られている。黄砂は、高度8kmまで運ばれることがあり、自由対流圏に運ばれたエアロゾルは、地球規模で長距離輸送されることが報告されている。
対流圏エアロゾルは重力沈降や慣性衝突による乾性沈着のほか、雲過程、降水過程によって効率的に除去(湿性沈着)されるため、滞留時間が数日と短い。このため、比較的近傍の発生源を反映した組成を示すことが多く、1000km程度の水平スケールの分布を示す。
(福岡大学・林 政彦) 2016年7月4日 ★