複素屈折率は、消散係数や光散乱分布パターン(位相関数)、単一散乱アルベドなどのエアロゾル光学特性を、ミー散乱理論に代表される数値計算から求める際の重要なパラメータである。また、光散乱を用いた計測(例えば、光散乱式カウンター、ネフェロメータ、ミー散乱ライダーなど)においては、校正時または仮定した複素屈折率の値と実際に測定した粒子の値との違いが、計測誤差の要因となる。
複素屈折率は、実数部nと光吸収を示す虚数部kを用いてm = n-k iと表し、その値は粒子の組成や混合状態により異なる。エアロゾルと雲の光学特性を扱うOPAC (Hess et al., 1998)では、起源粒子ごとの粒径分布パラメータに加えて、複素屈折率やその他の光学パラメータが波長ごとにリスト化されている。OPACのデータベースを例にとると、吸湿性エアロゾルである硫酸塩粒子(Sulfate)の複素屈折率は、相対湿度80%においてm = 1.353-3.603×10-9i(波長0.55 mm)と水の複素屈折率m = 1.33-0iに近い値を示す。一方、固体の粒子である鉱物粒子(Mineral-coarse mode)はm = 1.530-0.0055i、黒色炭素はm = 1.750-0.435 i(ともに波長0.55 mm)と実数部、虚数部ともに液滴の粒子に比べて相対的に大きな値をとる。
(参考文献)
H. Hess, P. Koepke, I. Schult, Optical properties of aerosols and clouds: the software package OPAC, Bull. Am. Meteorol. Soc., 79, 831–844, 1998.
(京都大学・矢吹正教) 2016年8月11日 ★