2021-06
2021年 6月号 なぜ日本のワクチン接種は遅いの?
お妃(きさき)さまが
お妃: かがみよかがみ。
この世で一番‥‥
鏡: はいはいお妃さま、あなた様がいちばんでございます。
白雪姫が毒リンゴで殺されてからは、あなた様が一番美しい女性になられました。
お妃: あのね、私が言いたいのは‥
鏡: だいじょうぶ、だいじょうぶ、ご安心下さい。
私は頼れる魔法のかがみ、お妃さまが若さを保つために
エステにないしょで出入りしていることなど、決して他言はいたしません。
お妃: ち、ちがうのよ、私が聞きたいのは‥
鏡: わかっております、わかっております。
韓国へ飛行機が飛ばなくなって、最近お妃さまが美容整形の手術を
受けていらっしゃらないから、しわとたるみが出始めたことなど、
私は気がつかないふりをしております。
お妃: し、しわとたるみ‥
鏡: いいえ、いいえ、何もおっしゃらなくてけっこうです。
お妃さまが白髪(しらが)を染めようと、アマゾンで購入なさったビゲンの
カラーリンスが、染まり方があまいということなど、私も充分に存じ上げております。
お妃: あのね、わたしの白髪のことは、ほっといて。
鏡: いいえ、いいえ、それもこれも、すべては高い嫉妬心のなせる技、白雪姫に対する
ジェラシーの集大成、深い妬みの集合体、やっかみドラマ総集編と申し上げても
過言ではありません。
お妃: よくしゃべる鏡ね!あのね、私が聞きたいのは、誰がこのあたりで一番にコロナワクチンを
接種してるのか、なんで私の接種がこんなに遅いのかってことよ!
超低率、日本人のワクチン接種
鏡: お妃さまが、美しさの順番以外に、気になさることがあったのですね。
お妃: あのね、舞踏会もカーニバルも全て中止よ。せっかく仮面も新調したのに、
今年も、ベネチアで使えなかったわ!
鏡: お妃さまは、かなりの数、ベネチア用の仮面をお持ちのはずなのに、
今年もまたお作りになったのですね。
お妃: 先日 Go to Eat の券がのこってたから、城から抜け出して焼き鳥屋に飲みにいったのに、
緊急事態宣言でお酒は出せないっていうのよ!もうぷんぷんよ!
鏡: ‥‥お妃さま、焼き鳥屋に行ってらっしゃったのですね?
お妃: なんでもいいわ。どうして、日本のワクチン接種はこんなにおそいの?
鏡: そのあたりの理由は、政治家の政治力に深く関係しています。
お妃: ブータンでは、成人の9割がすでにワクチンを接種したとニュースでいってたわ!
鏡: はい、たしかに日本でワクチンの接種を1回でも受けた人の割合が2.9%で、
イギリスやアメリカの50%近い割合からはるかに下回り、韓国やインドの割合にすら
とどかないというのは、全くなさけない話でございます。
お妃: こんなに接種率が低いくせに、看護師がいないとか、場所がないとか、
申込みの電話がつながらないとか、泣きごとばかり言ってて、
もっとみんなが感心するような粋(いき)なアイデアは出ないものなの?
鏡: 医療行為を行う人、場所、時、管理、接種データの集約、すべてきまりがあって‥
お妃: テレビでみたけど、アメリカなんかドライブスルーで接種してたわよ。
鏡: 注射の時のならび方を練習して、注射の打ち方を予行演習して、
ずるい奴が先に接種しないように監視して、端数のワクチンを捨ててまで
「文句を言われないこと」に徹する日本の公務員たちに、
新しいアイデアを要求するのは酷です。
お妃: 「外出するな」「食堂をとじろ」「医療崩壊の原因は国民の気のゆるみだ」ばかりの
毎日のニュース、何だかちがうような気がしてきたわ。
日本はワクチンを作れない?
お妃: だいたい、日本は技術大国のはずでしょ?なんで日本製のワクチンが作れないのよ!
鏡: ワクチンの開発や製造は、手間と費用がかかります。
お妃: 他の先進国では、AI使って開発してるっていうじゃないの?
鏡: 日本も、AIを使って開発する技術は充分に持っております。
お妃: じゃ、何の手間がかかるってのよ!
鏡: はい‥厚生労働省の承認をとるのに膨大な「手間」と「時間」がかかるのです。
お妃: そんなの去年の7月号のタマキタイムズで読んだから、知ってるわよ!
あの時はワクチンを作るのに、どこの国でも日本と同じように5年も10年もかかると
信じてたわ!なのに、アメリカやイギリスが半年ほどで承認して大量生産にこぎつけて、
ロシアや中国まで自前でワクチンを世に送り出してるじゃない!
なんで日本が作れないのよ!
鏡: 日本では富士フイルムの「アビガン」がやっとでした。
お妃: 法律があるから、役人が認めるのが遅いから、薬を承認して不具合が生じたら
承認した人たちの責任だから、なんて言ってみんなで足の引っ張り合いをやってたら、
いつまでたっても外国から送ってもらう数の少ないワクチンのとりあいよ!
鏡: お妃さま、だいぶステイホームでイライラがつのっていらっしゃいますね。
てきぱきと外国製ワクチンを輸入できない?
お妃: あのね、百歩ゆずって自分ですぐに作れないのなら、
てきぱきと外国のワクチンを輸入したらどうなの?
鏡: 日本では、誰が、外国製薬企業の誰と交渉して、どんな契約を結んでいるのか、
全く説明がなされていません。
お妃: どういうこと?
鏡: 今回のコロナ以前に、外国の製薬メーカーが新薬を日本に売り込もうとしても、
日本では役人の力が強くて、審査過程が不透明で、欧米に比べて不合理なほど
長い時間がかかるというのは有名な話でございました。
お妃: ということは、日本が外国のワクチンをせっせと輸入できないのは‥
鏡: 外国製の新型コロナワクチンを、最初はすぐに認可せずに、買うのか買わないのか、
はっきりさせずにずるずる引っ張っていた日本政府が、世界中で奪い合いになった
とたんにお金をつんで「お願いだから送って」と懇願しているのが現状です。
お妃: 今あるワクチンの効果や副作用も、諸外国のうわさがたよりで、日本国内での検証を
待っていたら、いつまでかかるのか見当がつかないわ。
鏡: 日本政府は欧米の急造ワクチンをほとんど鵜呑み状態で信用しているのに、
ロシア製や中国製のワクチンを全く信用しないのも、理由は全く明らかになっていません。
なぜ遅い、日本の役人
お妃: 日本の役人は、なんでそんなに頭が固いの?
鏡: 新型コロナに関して、法的根拠なしに特例をつくって、自国でワクチンを製造したり、
外国からワクチンをどんどん輸入したら、後で問題が出てきた時にその責任を
自分たちが負わされるから困るという「とても日本的な感覚」なのでしょうね。
お妃: 日本人は、みんなそんな感覚なの?
鏡: 疑問に思う部分があっても、自分の番で冒険をして改革したり、変更したりすることは、
日本人はほとんどしません。住民の自治会組織や学校のPTA活動なども、
多くの人が「もっとこうすれば」と考えても、前のひとがこうやったのだから、
自分がうけもっている間、何も問題なく終わってくれれば、「いいじゃない」に
なるのです。
お妃: 今までに、失敗した薬があったの?
鏡: 薬害エイズの事件やサリドマイド事件がありました。いずれも、薬の使用で被害を
受けた人たちがたくさんいて、その責任を「薬を認可した人たち」にとらせました。
お妃: 長いこと時間をかければ、問題が自分たち以外のどこかで生じるから、あわてて
認可する必要がない、という方程式ができあがってるわけね。
鏡: はい、みんなが「責任をもって」慎重にやっているわけです。
保健所は?クリニックは?
お妃: 保健所はどうしてるの?
鏡: 残念ながら、感染の状況を把握、報告する業務に忙殺されてしまっています。
病気を治す薬も予防薬もなくて、検査の道具も足らなくて、患者の入退院に関する
命令の範囲や、医師や看護師、救急車などに対する要請系統もはっきりしていません。
感染症ほとんどなしの時代が長すぎて、少人数でぶっつけ本番で対応している状態です。
お妃: 診療所(クリニック)はどうしてるの?
鏡: 残念ながら、感染症患者が自分の病院の患者に加わることを深く想定していません。
ワクチン接種の順番
お妃: かがみよ、かがみ。私のワクチン接種はいつになるか、わからないわね。
鏡: うかがいにくいのですが、お妃さまは、今年何歳になられますか?
お妃: レディーに年をきくなんて、失礼よ!
鏡: 申しわけございません。年齢の高い方から順番に接種がうけられると聞いたので‥
お妃: ち、ちょっとまってよ。私は1810年のグリム童話に登場した時に20代だったから‥
鏡: かるく、230歳をこえていますね。
お妃: かがみよ、かがみ。今一度、聞くわよ。この世で一番、早くワクチン接種を受けられるのは
だあれ?
鏡: お妃さま、どう考えても、あなたさまでございます。
文責:玉木英明